2020年の新型コロナウイルスの流行を機に、さまざまな企業が新しい営業スタイルを模索し始めました。そのひとつとして「テレワーク」を導入した企業も多いのではないでしょうか。また、テレワークを推進するにあたり「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に注目する企業が増えています。
今回は人材業界にスポットライトを当て、今後の営業のあり方とDXやテレワークを推進すべき理由・課題、成功事例についてまとめました。
今後求められる人材業界の営業のあり方
ビジネス環境が目まぐるしく変化する中、今後の人材業界における営業スタイルはどのようにシフトしていけば良いのでしょうか。ここでは、3つのポイントをまとめます。
労働人口減少の中で人材獲得を維持する
まず言うまでもなく、労働人口の減少は、大きな社会問題となっています。
現在、コロナ禍による経済的な影響で企業の人手不足感は一時的に低くなっていますが、長期的に見れば労働人口不足に伴う問題はますます加速するでしょう。そのため、人材業界は人材の需給調整機能として大きな役割を期待されています。
一方で、参入障壁の低さと利益率の高さから人材業界ビジネスに参入する企業は増えてきており、競争は激化しているのが現実です。全体のパイが小さくなる中でも、人材業界会社は企業に紹介できる求職者を確保し続けなければなりません。
さらに、求職者が働き方に求める価値観も変わってきています。今後の人材業界では、企業に対しても求職者に対しても、多様な条件にも対応できる柔軟な営業力が求められるでしょう。
人材業界自体の労働環境の見直しも必須
エン・ジャパン株式会社の調査によると、人材不足の問題が顕著なのは「営業」部門となっています。
営業担当者の不足の原因の1つとして、「離職・退職による欠員」が挙げられています。営業部門は担当業務が多く、昨今では自身のLINEやFacebook Messengerも使って営業時間外もやり取りをするなど長時間労働になりやすく、退職を考えてしまうケースが後を絶ちません。
御存知の通り、特に人材業界の営業はどの会社へ行ってもといっても過言ではないほど激務であることが多いのが現状です。求職者が現職で働いている場合、面談は夜か土日に設定することもあるでしょう。
そのため、夜遅くまで仕事をしたり土日に出勤しなければならないケースもあり、ワークライフバランスを保てずに離職に繋がることもあるかもしれません。
このように離職率が高い傾向にある人材業界においては、社員に長く働いてもらうために働き方改革を検討する必要があるでしょう。たとえば、
- 営業の業務量の最適化
- フレックスタイム制の導入
- テレワークの導入
などが考えられます。流入の大部分をスカウトメールに頼っていては、やはり営業メンバーの消耗度合いを下げていくのはなかなか難しいものです。営業部門に限らず、人材業界自体の労働環境の見直しも必要になってくるでしょう。
事例に見るテレワーク導入までの7ステップ!すぐわかる導入のポイントを解説
生産性の高い営業を実現するにはDXが求められる
少ない営業担当者で成果を上げるには、生産性の高い営業が必要です。そこで注目を浴びているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
DXとは、デジタル化によるビジネスモデルと組織の変革を指します。「DX=IT化」と理解している人もいるかもしれませんが、DXは「ITを活用してビジネスの変革を起こす」ことを意味するものです。
人材業界の営業におけるDXは、面談を対面からオンラインに切り替えることがゴールではなく、オンライン営業をどのように活用するか、まで考えなければなりません。
たとえば、1人の求職者のヒアリングは営業担当者1人で対応することが多く、ブラックボックス化しやすいと言われています。そこでITツールを活用すれば、面談内容を録画・録音・分析することができます。分析した面談内容を確認することで、上司は適切なアドバイスができますから、効率的な営業に繋がるでしょう。
また法人営業部門では、成約率の高い営業社員の営業トークを分析・共有することで社内全体のスキルを高めることが期待できます。併せてCRMを活用して顧客の状況を見える化することで、顧客との関係を良好に保ちながら科学的に営業活動が進められるようになります。
このように、今後の人材業界で営業の生産性を上げていくためにはDXの活用(一部のベテランの職人芸に頼らずデータを使って営業プロセス全体を見直していく)が求められます。
経産省のDXレポートから読み解く本当に企業が取り組まなければならないデジタル革命とは
【営業DX】いま取り組むべきデジタル×アナログのハイブリッド営業とは
人材業界がDX・テレワークを推進するべき理由
今後のビジネスで生産性を上げるためにはDX・テレワークの活用がポイントになりますが、特に人材業界においてDX・テレワークを推進すべき理由には何があるのでしょうか。
ここでは、DXやテレワークを推進した場合のメリットに触れながら、4つの理由について解説します。
アプローチできる人材が増える
求職者と対面で面談をするのは、時間的・物理的な制約があります。
たとえば、社内に求職者を迎えるには会議室を確保する必要がありますが、会議室が満室で確保できないケースもあるでしょう。そのため、アプローチできる人数が限られてしまうことがあるかもしれません。リモートワークならオンラインで求職者と面談ができるため、会議室の状況を懸念する必要はありません。
さらにオンライン面談/面接なら、1日あたりの面談数を単純に増やせるだけではなく、地方や海外在住の方とも設定が可能です。もちろん、多忙な現職者にわざわざ自社オフィスまで来ていただかなくても面談・面接ができれば、そのハードルの低さからより多くの方に対応することが可能になります。
結果として、より多くの求職者を確保し続けられます。
働き方改革
テレワークは人材業界の働き方改革の一助になることが期待されています。
たとえば、テレワークを導入することで、出勤の時間を削減し、例え残業をすることになっても、業務を終えればすぐにプライベートの時間に移ることができます。企業への営業活動も、Web会議システムなどで実施すれば移動時間を減らすことができるので、時間を有効活用できるでしょう。
またDXを進めることで、人が手作業でしていた営業業務をデジタル化することができます。たとえば、AIが求職者に最適な求人を自動提案できるようになれば、営業の業務量を軽減できるでしょう。また、AIに対するお客様の反応からさらなる情報を得て、より効率的な営業を仕掛けることも期待できます。
同時に、素早く最適なマッチングをすることで、求職者や企業に満足度の高い顧客体験を提供することができるので、DX・テレワークを進められていない他社との差別化も図れるでしょう。
「2025年の崖」問題
多くの企業が将来の成長や競争力強化のためにDXの必要性について理解しているようですが、上手くいっていない企業も多いようです。たとえば多くの企業がITを導入していますが、システムそのものが老朽化・複雑化・ブラックボックス化しているケースもあります。
「新卒紹介」「中途採用」「人材派遣」など複数のビジネスモデルを展開している企業では、部門ごとに異なるITシステムを使用しているために社内全体でデータを活用できていない企業もあるのではないでしょうか。社内にあるデータを包括的に活用することができない状態が多くの企業で続けば、各企業が新たな商機を失うばかりでなく、やがて国内経済が停滞してしまうリスクも考えられます。
経済産業省はこの課題を解決できない場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性を指摘しており、これを「2025年の崖」問題と呼んでいます。デジタル化に遅れをとり多大な損失を生み出さないためにも、人材業界のDX化は急務となっています。
BCP対策
「BCP」とは「事業継続計画」のことです。企業が、自然災害・システム障害などの緊急事態に見舞われた時でも、損害を最小限に止めて重要な業務を継続できるようにする対策を意味します。テレワークを導入していれば、自然災害によって交通機能が麻痺したとしても社員は在宅勤務をしながら営業活動などの業務を遂行することが可能です。
ところで、人材業界とりわけ人材派遣会社で難しいのは、「非常時における派遣社員の安全性の確保」でしょう。2020年の緊急事態宣言下では、多くの正社員が在宅ワークをはじめとするテレワークに切り替わる一方で、派遣社員は出勤し続けなければならなかったことが話題になりました。
派遣社員もテレワークが徐々に認められてきていますが、BCP対策については派遣先企業と話し合いをしながら進めていく必要があるでしょう。
人材業界のDX・テレワーク導入の課題
人材業界の営業の未来のためにDXとテレワークを推進すべき理由をお伝えしましたが、DXとテレワークの導入は一筋縄にはいきません。
ここでは、人材業界でDX・テレワークを導入するために乗り越えないとならない3つの課題をまとめます。
IT人材の欠如
経済産業省は、2030年にはIT人材が最大で79万人不足すると予測を立てています。コロナ禍で移動が制限される中で、デジタルテクノロジーを活用したサービスがますます伸びることが期待されるため、企業はこれまで以上にIT人材の確保に注力するでしょう。
人材業界に従事する皆さんも、企業からのオーダーで「IT」「DX」「エンジニア」などのキーワードが増えていることを実感されていることと思います。企業へIT人材を紹介することは自社の売上拡大のためにもちろん重要なことですが、DXを活用して営業活動に変革をもたらすためには、人材業界企業内でもIT人材の確保が必要になります。
さらに、DXを活用するには単にプログラミングができる人材ではなく、ビジネスの変革まで見据えられる質の高い人材が求められるでしょう。しかし、株式会社電通デジタルがおこなった調査結果では、DX推進上の障壁として過去は「コスト」が1位だったのに対し、2020年は「スキルや人材不足」が1位となりました。
そもそもほとんどハイスキルなIT人材が市場にいなく、いたとしても「年収をいくら出せば獲得できるか?」と高額年収を出せる企業の取り合いになっているのはご存知の通りです。
よほど大手でもない限り、人材業界側がハイスキルDX人材を獲得するのはほぼ不可能で、企業のオーダーに応えていくのもより一層難しくなるでしょう(運良く成約してもカルチャーのミスマッチで定着せず、すぐにまた転職してしまうのもあるあるですよね)。
紙からデジタルへの移行の手間
DX・テレワークを推進するにあたり、ペーパーレス化は必須と言えるでしょう。
しかし、これまで履歴書や企業との契約書などは紙での管理が基本であり、それらをデジタル化していくには非常に手間が掛かります。また人材業界、とりわけ人材派遣業では、最近まで労働者派遣(個別)契約を紙媒体の書面で管理することが法律で義務付けられていました。
このように、DX・テレワークの導入を進めるにあたり自社でペーパーレス化を推進したくても、法律で紙媒体での管理を義務付けられている書類もあります。そのため、書類1つ1つの管理義務について確認していく必要も生じるでしょう。
情報セキュリティの問題
テレワーク導入にあたり、セキュリティ対策は避けて通れない問題です。オフィスならIT管理者の強固な監視の元セキュリティは守られていますが、テレワークでは個人の注意に委ねられる部分もあるでしょう。
人材業界では多くの個人情報を扱っているため、セキュリティはより重要になります。
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人材業界におけるDXの成功事例
前述のように人材業界においてDXを推進するには課題がありますが、DX施策の一環としてテレワークを導入した結果、成功した事例もあります。ここでは人材業界企業2社の成功事例をご紹介します。
株式会社スタッフサービス・ビジネスサポートの事例
株式会社スタッフサービス・ビジネスサポートでは、障がいを抱える求職者が通勤をせずとも働ける安心・安全な就労形態の重要性を感じていました。そこで、DXを活用することで完全在宅勤務という新たな雇用スタイルの創出に目をつけたのです。
具体的には、
- Web勤怠管理システムで、在宅勤務社員の出退勤を管理
- 研修はWeb会議システムで実施
- チーム内で1日3回オンラインミーティングを実施、社員同士が常時会話できる環境の設定
このような環境を整備した結果、コミュニケーションを重視した職場環境を構築でき、在宅勤務をしながらも社員同士の繋がりを実感できる働き方を提供することに成功しました。その結果、4年間で255名の重度障がい者の雇用を創出することができ、入社後1年間の定着率も96.5%と高い状態を維持できています。
【テレワークと勤怠管理】直面しがちな問題の解決方法と解決に役立つツールについて
株式会社パソナテックの事例
株式会社パソナテックは、時間と場所にとらわれない働き方を提供するために、ICTを活用しています。
たとえば、コミュニケーションやマネジメントは「Office365」を導入することで円滑に進めています。また、地方採用や地域活性化の実現のために、クラウドソーシングスクールで技術者を育成しています。その結果、開発者300名の就業支援に成功しました。
まとめ・Q&A
人材業界においてテレワークやDXを活用した今後の営業あり方や課題、成功事例ついて解説しました。最後に、本記事の内容をQ&A形式でまとめます。
Q.今後求められる人材業界の営業のあり方とは?
A.労働人口が減少している中でも、人材獲得を維持できる営業力が必要です。そのために、DXやテレワークを活用した生産性の高い営業が求められるでしょう。また優秀な営業社員を確保するために、人材業界自体の労働環境の見直しも必須です。
Q.人材業界がDX・テレワークを推進するべき理由は?
A.以下の4つの理由があります。
- アプローチできる求職者の人数や範囲が広がるため
- 営業の働き方改革に繋がるため
- 社内に散在している貴重なデータを包括的に活用するため
- BCP対策になるため
Q.なぜ人材業界においてDX・テレワークが進まないのか?
A.以下の3つの課題が考えられます。
- IT人材の不足
- ペーパーレス化推進の壁
- 情報セキュリティへの不安
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