働き方改革が叫ばれる昨今、業務の生産性向上はどの企業でも取り組むべき重要な課題です。しかし、「生産性を向上しよう」と思っても、何をすれば上がるのかわからない方も多いのではないでしょうか。
生産性向上のためにツールなど新たな仕組みを導入しても、結局そのツールの運用に新たな工数がかかってしまい、「これが軌道に乗ったら楽になるから…」と信じながら忙しくなる一方という悲しい現実を抱える企業もあります。
今回は、営業に特化して営業チームの生産性を向上させるコツをご紹介します。
なぜ今生産性向上が必要なのか
そもそもなぜ「生産性向上」が必要なのでしょうか。もちろん少ないコストで大きな売上を出すため、なのですが、それ以上に今の時代だからこそかつてより生産性向上が重要視される理由があります。
企業の人材不足
1つの理由は、人材不足です。日本の生産年齢人口はどんどん減っていくため、今後も企業の人材不足は深刻になっていきます。しかし人材不足に合わせて売上も落としていくわけには当然いかないため、より少ない人数で多くの売上を出せる仕組みが必要なのです。
働き方改革などの社会的要請
上記とも関わりますが、働き方改革が政府主導で進められている中、企業は残業時間削減等に取り組む必要があります。
安価なクラウドサービスの台頭
近年はサブスクリプション型の安価なクラウドサービスが増えています。サービスの価格が安くなるということは、営業にかけられるコストも下げる必要があるということになります。
こういった理由などから、営業マンの生産性向上は必要不可欠です。では、どのような手順で生産性を上げていけばよいのでしょうか。
営業生産性とは何か
営業生産性とは、生産に対してどれだけの付加価値を付けられたかという概念です。「生産性が高い」とは、少ない労働時間でより多くの売り上げを上げることをいいます。
似たような考えとして「業務の効率化」がありますが、これは生産スピードを早めたり、人員の削減をしてコストを下げたりすることを指します。生産性の向上と業務の効率化は似ているようで違うものです。
ここでは、営業生産性の算出方法と細分化についてご紹介します。
なぜ営業生産性は下がってしまうのか
営業生産性を高めようと目標を掲げる企業は多いです。なぜなら、少子高齢化による人材が不足や、働き方改革によって残業時間を減らそうといった背景があり、より少ない人員で高い目標を達成することが求められているためです。
ではなぜ、営業生産性はなぜ落ちてしまうのでしょうか。営業生産性が落ちてしまう理由には次のようなものがあります。
- 目標なく何となく行動している
- 目的が不明確な会議や打ち合わせをしている
- 隙間時間を活かせていない
- 行動管理ができていない
- 資料の管理ができていない
普段気を付けているつもりでも、実際には上記のような行動を行っている、もしくはできていないといった企業は多いのではないでしょうか。特に、事前準備もせず、目的意識も持たずにただスケジュールに入っているからと実施される会議ほど無駄な時間はないでしょう。
しかし、営業生産性を向上させるとメリットを知れば、必ず生産性を向上させたいと思うようになるでしょう。
営業生産性によって得られるメリットは以下のとおりです。
- 残業時間の削減
- 業務の無駄がなくなる
- 純利益の増益
メリットを享受するのは会社および各社員です。必要な業務を必要な時間内で行うことで、各社員が受け持つ仕事全体が効率化され、会社としても売り上げアップに繋がります。
さらに、残業で使っていた時間をセミナーや研修に参加する時間に当てることができれば、スキルアップも期待できます。
実は、行動や考え方を変えるだけで営業生産性を改善することができます。具体的な改善方法は以下のとおりです。
- なんとなくではない自分ルールを作り、実践する
- 会議や面談の目的とゴールを明確にする
- 行動管理を徹底する
- 資料の管理をする
「なんとなく」では成果は出せません。「新規の営業は1日〇件まで」といったような明確なルールを作り、日々ブラッシュアップをしましょう。
営業のゴールは契約することですが、そこに至るまでに細かいゴールを決めて達成を繰り返すことが、結果に結びつく近道です。
毎日自分の行動管理を行い、何件のアポイントが取れてそこから成約へ至ったのは何件か、電話やメールで何件アプローチを行い、どの程度レスポンスがあったのかなど、自分の行動を日々振り返り、分析をしましょう。>
どのように算出される?
営業生産性は、「リソース(投入した労働量)」からどれだけの「リターン(売り上げ)」を獲得したのかで表し、「売り上げ÷総労働時間」で算出できます。この計算式で求められるのは社員1人の1時間あたりの売り上げです。
例えば、社員100名で売り上げが100億だったとします。年間労働実数が250日で1日8時間労働だとすると、総労働時間は20万時間(100名×250日×8時間)です。「売り上げ÷総労働時間」の式に当てはめると、1人の社員が1時間あたり5万円を売り上げていたことになります。
この営業生産性の結果を見て、時系列で推移を見たり、部門間で比較することで問題を把握したりします。
なお、具体的な問題までが分かるわけではないので原因や課題については分析が必要です。
さらに細分化すると「営業の量と質」になる
少ない資源の投入で多くの営業成果を出すためには、営業の質と量の向上が重要です。営業部門における生産性は、細分化すると「営業効率(質)」と「営業稼働率(量)」の2つに分けることができます。
「営業効率」は営業1人の営業活動1時間あたりの売り上げで、「営業効率=売り上げ÷営業活動時間」で求めることができるのは前述したとおりです。
一方、「営業稼働率」は総労働から営業活動時間が占める割合で、「営業稼働率=営業活動時間÷総労働時間」で計算します。
例えば、総労働時間が20万時間で、その内の10万時間が営業活動時間だと営業稼働率は50%(10万時間÷20万時間)となります。したがって売り上げが100億だったとすると、営業活動1時間に対する売り上げは約10万円だったということになります。
営業の質と量のどちらを優先するかは、自社の営業の内容や活動の反復性によって導き出します。営業活動の質を重視した営業では、営業マンの経験や能力、営業手法の違いが結果に反映されるため、営業部門全体のスキル向上が成果へと繋がります。
また、営業活動の量を重視した営業では、営業マンのスキルが結果に現れにくいので、商談時間・件数の増加が成果へと繋がります。
生産性向上の第一歩は業務内容と工数を正確に把握すること
まず、「生産性を上げよう」「業務を効率化しよう」「無駄な作業を減らそう」と考えるには、今何にどれだけ時間がかかっているかを正確に把握する必要があります。自分の、もしくはチームの作業内容とかかっている時間を明らかにしましょう。以下に、ある営業パーソンの1日を紹介します。
9時に出社し、そこから上司と30分ミーティング。11時までその日の商談の事前準備をします。商談する企業や担当者について情報収集し、抱えている課題に仮説を立てたり、サービス資料を少しカスタマイズしたり、という時間です。
そこから移動し、ランチを済ませた後、3つの商談をこなします。移動中にお客さんと電話をすることも。3つ目の商談が終わるのは17時半で、そこから会社に戻り、その日商談したお客さんにお礼のメールを送ったり、お客さんからもらった宿題をこなします。最後に日報を書き、退社は20時半頃です。
このように、まずは自分の(チームの)業務内容とかかっている工数を明らかにすることが重要です。ここから、生産性を向上させるためにとれるアクションを検討していきます。
削減できる作業・時間は?
生産性を上げるためにはまず削減できる作業や時間がないかを考えましょう。削減できる作業とは、主に「惰性でやっているが本当は意味のないこと」「ツール導入で必要がなくなること」の2つがあります。
惰性でやっているが意味のないことを知ろう
例えば先程紹介した営業マンの1日では、毎朝30分のミーティングを行っていますが、このミーティングは本当に毎日行う必要があるのでしょうか。
結果的に毎日必要という結論に落ち着くかもしれませんが、この疑いを持つことは生産性向上に非常に重要です。習慣になっている会議や作業は何の疑いも持たずにこなしがちですが、1つ1つ確認していきましょう。
削減できる会議や作業を探すコツは、それが何に活きているかを知ることです。会議の目的は何でしょうか。作業の目的は何でしょうか。その際、「上司に前日の商談内容やヨミの変化を報告する」のが目的、と考えてはいけません。営業チームの最終目標である売上の最大化から落として、その会議や作業の目的を確認しましょう。
- 売上を達成するには、毎営業日の進捗を把握し、このペースで達成できるのかできないのかを確認する必要がある
- そのためにマネージャーは、毎日各営業マンから、前日商談したお客さんの見込みと、過去商談したお客さんとの接触・見込み変化を知る必要がある
といった形で言語化できたとします。会議や作業はそれ自体をやることに意味があるわけではなく、この目的を達成するためにあるため、ここを言語化できるともっと効率よく行える方法を検討できます。
- 毎朝ミーティングをしなくても、社内チャットツールで報告すればいいのでは?
- 大きなリスクがある時だけミーティングをすればいいのでは?
- 日報を書いているのでそれで十分なのでは?
など、これで30分のミーティングを10分の作業に変えることができれば、1つの生産性向上を達成できます。
作業に関しても同様です。使えると思って日報に項目として入れておいたが、全く活用できていないものがあれば削除するなど、1つ1つの作業についてもそれが何に活きているか、何を目的として行われているかを確認しましょう。
ツールでできることを知ろう
世の中のサービスやツールにアンテナを張っておくことも重要です。世の中はどんどん便利になっているため、「もっとこういうことできないかな」と思ったことは大抵何かのツールで実現できたりします。他社に話を聞くことも情報収集の方法としては効果的です。
例えば、オンライン商談ツール「ベルフェイス」を使うとオンライン上で訪問と同等の商談ができるようになります。訪問が当たり前とされていた時代はとっくに終わっており、今やオンライン上での商談はどんどん広がっています。このツールを使うと、上記の営業マンの例では3.5時間の移動時間を削減することができます。
例えば、電子契約サービス「クラウドサイン」を使うとクラウド上で契約書を締結することができるようになります。契約書を印刷し郵送したり、データをメールで添付したり、という工数を削減することができます。
このように、営業マンの生産性を向上させるセールステックと呼ばれるジャンルのツールは今非常に注目を集めています。これらのツールの導入を検討することで、営業生産性を上げられる可能性があります。
商談やその後のフォローの質を上げるには?
削減できる作業時間をなるべく削減したとして、これで生産性のコスト部分を決める要素を減らすことに成功したと考えます。
そうすると、次は生産性のパフォーマンス部分を決める要素を増やしていく必要があります。なるべく同じ作業時間で売上を増やすために、商談や事前準備・商談後フォローの質を上げる方法を考えましょう。
受注しやすい商談の要素を深掘りする
受注率向上を図るには、営業マンのスキルやオペレーションを改善する方法もありますが、商談の質を上げる方法もあります。そのためには、どういうお客さんが受注に至りやすいかを知ることが重要です。
また、サブスクリプションモデルのサービスで、チャーンレートが経営上の重要指標であるならば、受注に至りやすいだけではなく、サクセスしやすいお客さんがどういうセグメントかという観点も見ておきましょう。
例えば以下のようなセグメントで過去の商談の受注率を明らかにするとよいでしょう。
- お客さんの業界・業種
- お客さんの役職・立場
- 企業規模
業界・業種によって受注率が大きく異なるのであれば、受注率の高い業界・業種に商談を寄せていくことで、同じ商談の数をこなしながら受注数は増えていくことになります。役職や企業規模も同様です。
受注に至りやすい要素を発見することで、商談の質を高め、受注率を高めることによって生産性を上げることができます。
商談準備や商談後フォローの勝ちパターンをテンプレ化
作業時間の削減とも関わる話ですが、商談の事前準備や商談後のフォローメール・電話は、うまくいったものをテンプレ化していきましょう。
- 事前準備で調べておくべきこと
- 用意しておくべき資料
- 商談前に送るメールと送るタイミング
- 商談のお礼メールと送るタイミング
- 宿題を課された時に用意する資料
などはテンプレ化できる可能性があります。過去どういうアプローチがうまくいきやすかったかを分析し、それらを使い回す体制をつくりましょう。
営業全体の流れの見直しも重要
目的や達成目標の設定、案件管理などの工夫を行ったとしても、生産性が向上しない場合があります。そんな時には、営業プロセスの見直しが必要です。
受注までにニーズ確認、商品説明、クロージングの3回の訪問商談を行っていて、移動時間が膨らんでいる状況があったとします。効率化するためには、例えば1回目の訪問をオンライン商談にできないか検討しましょう。
オンライン商談であれば移動時間や交通費をかけずにニーズの確認を行うことができます。2回目の商品説明では、セミナーや説明会を開催すれば、興味を持つ多数の顧客に同時にアプローチすることができます。3回目のクロージングは、説明会後に商談の時間を持つことができれば省略することも可能です。
なお、営業活動の見直しや施策は長期的視点で行いましょう。効率化するための施策を行ったら効果検証を忘れずに行い、常にブラッシュアップをする工夫が必要です。PDCAを回してより成果の上がる施策を模索し続け、営業生産性が向上するように努めることが大切です。
【営業のクロージングとは】成約率を上げる15のコツとプロセスを解説
まとめ
以上が営業マンの生産性を高めるコツです。様々な要因から各企業すぐにでも取り組む必要のある生産性向上。ぜひこれらのコツをもとに、貴社でも実践してみてください。