アップセル・クロスセルとは?事例に学ぶ顧客単価最大化法

顧客単価を低コストで伸ばす手法として、既存顧客に向けたアップセル・クロスセルは用いられやすい手法です。しかし、どういった施策を行うか迷っていたり、実施しても思ったほど売上が伸びなかった、といった悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。

本記事では、アップセル・クロスセルに関して解説するとともに、顧客単価の大幅な向上を実現した事例をご紹介します。顧客単価の増加および維持を目指す方は、ぜひご参考ください。

調査結果に基づいた営業の「ちょっと先にある未来」とは

アップセル・クロスセルとは?

アップセル・クロスセルとは?

アップセル・クロスセルによる既存顧客向けの営業は、新規開拓と比べて低コストで実施しやすいことがメリットです。しかし、アップセルとクロスセルは、商品を売り込む際の考え方や手法が明確に異なります。

まずはアップセルとクロスセルの違いや概要について説明します。

アップセルとは?

自社の既存顧客に対して、より高額な商品・サービスの購入を促す営業手法をアップセルといいます。たとえば、スマートフォンの機種変更を行う顧客に最新モデルをおすすめしたり、無料のお試しプランから全機能が使える有料版への移行を促したりすることなどがアップセルに該当します。

アップセルのおもなメリットは顧客単価向上や顧客満足度向上などで、売上アップを図るうえで欠かせない営業手法の1つです。

ちなみに、アップセルと対照的な手法として「ダウンセル」という営業手法もあります。これは、顧客が予算の都合や使いこなせないといった理由で購入を諦めそうな場合、あえて安価な商品をおすすめする手法です。

安価な商品でも顧客に購入してもらうことで、最低限の売上を確保するというのがダウンセルを行うおもな目的です。

クロスセルとは?

クロスセルとは、複数の商品・サービスをあわせて購入してもらうように促す営業手法です。たとえば、パソコンを購入した際に、マウスや外付けハードディスクなどの周辺機器をあわせておすすめすることなどが該当します。

さまざまな商品を取り扱う企業においてクロスセルは行いやすく、サブスクリプション型サービスやECサイトなどのオンライン営業においても高い営業効果が見込めます。

クロスセルを行うおもなメリットとしては、顧客単価の向上やリピート率の増加、顧客ロイヤルティの向上が挙げられます。顧客のニーズを正しく把握することが前提になりますが、新規顧客を開拓する場合と比べて、低コストで売上を伸ばしやすいことがメリットです。

アップセル・クロスセルのためのポイント

アップセル・クロスセルのためのポイント

アップセル・クロスセルを実践する際には、高いマーケティング効果を得るために施策内容をしっかり検討することが重要です。ここからはアップセル・クロスセルを実施する際に役立つ知識をご紹介します。

顧客ロイヤリティを見極める

アップセル・クロスセルによって得られる売上の最大化を図るには、顧客ロイヤルティが高い人を対象としてアプローチする必要があります。そして、その顧客ロイヤルティの高さを見極めるために、顧客に対してNPSを実施することが有効です。

NPSは顧客に対して「購入した商品を友人に勧めたいと思いますか?」という質問を行い、0~10点の評価を付けてもらう手法です。0~6点を「批判者」、7~8点を「中立者」、9~10点を「推奨者」として分類します。売上の最大化を図るには、9~10点の「推奨者」を対象にアップセル・クロスセルを行うことが効果的とされます。

顧客ロイヤルティが高い顧客は、購入した商品の高機能版や関連商品などに対しても関心を示しやすい傾向があります。したがって、NPSは施策の無駄打ちを減らしたい場合やマーケティングコストを下げたい場合に効果的な施策です。

また、現代の企業が自社商品の売上を長期的に維持・増加させていくには、LTV(顧客生涯価値)を高めることが必須の課題となっています。LTVは「顧客単価×購入回数」という計算式で算出でき、LTVを意識することで、営業方針の見直しや自社商品の品質向上といった活動に集中できる環境を構築しやすくなります。

さらに、NPSの結果で批判者や中立者が多い場合は、顧客満足度が低く、常に新規顧客を獲得していかなければならない状況といえます。新規顧客獲得には既存顧客の5倍のコストがかかるとされているため、ターゲットの再設定やマーケティング施策の改善によって安定して売上を獲得できる基盤を構築しましょう。

商品やサービスの価値を高める

アップセル・クロスセルを行う際には、顧客にとって魅力的な商品を紹介することが大切です。顧客から見てお得感がない、必要性がない商品を紹介した場合、既存顧客の流出や顧客満足度の低下といった問題が生じる原因になります。

アップセルの成功率を上げるには、商品・サービスの価格設定や品質などを工夫することはもちろん、顧客がコストを払うメリットを具体的に示すことがポイントです。たとえば購入数に応じて1個あたりの料金を割安にしたり、高額プランを申し込んだ場合は一定期間割引にしたりするなど、顧客が実感しやすいメリットを提示しましょう。

押し売りによって顧客の信頼を損ねない

顧客のニーズをしっかり把握せずにアップセル・クロスセルを実施した場合、顧客目線で見ると商品を押し売りされていると思われてしまうため注意が必要です。そして、短期的な利益を重視して無理な営業を続けた場合、既存顧客からの信用低下や競合他社への流出などを引き起こす原因になります。

顧客によっては、検討中に他の商品を紹介されたことで迷って購入を諦めたり、一度持ち帰って検討したりするなどの対応を取られてしまうなどのリスクもあります。

したがって、アップセル・クロスセルによる営業効率の最大化を図るには、既存顧客からの信頼を長期的に維持することが重要です。

アップセル・クロスセルのための施策

アップセル・クロスセルのための施策

企業が売上を伸ばす手段としてアップセル・クロスセルはポピュラーな手法ですが、実践するには自社商品の特徴や顧客のニーズに合わせた綿密な企画設計や営業展開が必要です。ここでは、アップセル・クロスセルを実施する前準備として行うべきことをご紹介します。

プライシングの工夫

アップセルを目的とする場合には、自社および競合他社の価格、顧客のニーズなどに合わせたプライシングを行いましょう。

自社商品の価格を基準としてプライシングを行う場合、一定額の利益が確保できるといったメリットがありますが、価格設定によっては成約率が伸びない、競合他社に顧客が流出するといったリスクがあります。

また、顧客のニーズに合わせてプライシングを行う場合、機能面や価格面において顧客のニーズを満たせることから、顧客満足度向上やLTV増加といったメリットが見込めます。一方で、事前にマーケティング調査を行う必要があったり、限られた予算で商品開発を行う必要があったりするなどの課題もあります。

さらに、プライシングが定額制か変動制かどうかも重要なポイントです。

定額制の場合、顧客が購入や利用に必要な金額を算出しやすいというメリットがありますが、カスタマイズができないために解約率が高くなる傾向があります。対して、変動制は使用した分だけ費用が発生するもので、顧客は最小限のコストで利用を開始できるメリットがありますが、商品やサービスを提供する企業にとっては売上予測がしづらいというデメリットがあります。

商品設計の工夫

アップセル・クロスセルの成功率を向上させるには、自社の商品が大量購入や定期購入に適しているか、ニーズに応じてさまざまな商品やサービスを取り揃えられているかが重要になります。たとえば、そもそも取り扱う商品が少ない場合、高性能品への買い替えや関連商品をおすすめすることは難しいでしょう。

大量購入によるアップセルを行う場合には、一定金額以上購入で送料カットや割引を行うといったメリットを用意し、購買意欲を高めるのがおすすめです。また、定期購入や月額制のサービスなどでアップセルを行う場合には、短期間のお試しプランで顧客ロイヤルティの向上を図り、通常価格へのアップセルを提案するといった方法があります。

アップセル・クロスセルを行う際は、事前に顧客が購入した商品や金額に応じてアプローチする内容を決めておくと効率的に展開できます。

個々人の営業スキルの向上

アップセル・クロスセルの成約率を向上させるには、購買履歴や問い合わせ記録などから顧客のニーズを分析・予測したうえで、的確なアプローチを行うことが大切です。そのためには、営業マン個々人の営業スキルの向上が欠かせません。

また、営業を行うタイミングを見極めたり、顧客のニーズを正確に分析したりするには、商談を録画できるbellFaceや顧客管理ができるセールスフォースなどの営業ツールの導入も効果的です。

アップセル・クロスセルの事例

アップセル・クロスセルの事例

ここでは、アップセル・クロスセルを効率的に実施している企業の取り組み事例をご紹介します。

ヤクルト球団の事例

株式会社ヤクルト球団は、プロ野球チーム「ヤクルトスワローズ」を運営している企業です。近年、野球の人気が低迷していることから、ファンを維持していくことはヤクルト球団のみならず、業界全体の課題となっていました。

そこで、ファンクラブ「Swallows CREW」の会員を対象に顧客満足度向上を目的としてNPS調査を行い、記念品の1つであるユニフォームが顧客ロイヤルティ向上に影響を与えているという結果が得られました。

得られた調査結果を基に、有料制のプラチナ会員に加入したユーザーはユニフォームを記念品として選べるという施策を展開した結果、プラチナ会員が劇的に増加するという成果を収めています。その後もプラチナ会員とゴールド会員の定員がすぐに埋まるほどの人気を集めています。

Sansanの事例

法人向けのクラウド名刺管理サービスを提供するSansan社は、2012年からカスタマーサクセス(CS)の質を向上させてアップセルを増やすことを目標に活動しています。

同社ではCS業務の専門部署としてカスタマーサクセス部を新規設立し、営業部門がアップセルに集中できる社内体制を構築しました。これにより、SaaS業界では驚異の解約率0.60%という実績を打ち立てています。

Dropboxの事例

アメリカのDropbox社は、オンラインストレージサービスを提供する企業です。

個人向けのプランでは2GBまで無料とするフリーミアムを採用し、容量が低下してきたタイミングで有料プランへ誘導しています。しつこく表示すると押しつけがましさを与えてしまいますが、表示を消せる仕様にすることで煩わしさを低減させているのがこの施策の大きな特徴です。

また、サービスを知人へ紹介することで、紹介した人のストレージ容量が増加するキャンペーンを実施し、口コミによって新規顧客獲得というアップセルも展開しています。さらに、繋がりのあるユーザーの間でDropboxが活用されれば、必要な容量も大きくなり、おのずと有料プランへ移行してもらえる可能性も高まります。

Q&A

アップセルとクロスセルについて解説しました。最後にQ&A形式で内容を振り返ってみましょう。

Q.アップセルとクロスセルの違いとは?

A.アップセルとは、既存顧客に対して、より高価な商品・サービスへの切り替え、あるいはまとめ買いを提案する施策です。対して、クロスセルは既存顧客が購入した商品・サービスと関連するものをあわせて購入することを勧める施策となっています。

いずれもLTVを高め、少ないコストで利益を最大化できる、というメリットがあります。

Q.アップセル・クロスセルを実践する際のポイントは何か?

A.アップセル・クロスセルによって効率的に売上を伸ばすには、顧客ロイヤルティが高い層を見極めて営業を行うことがポイントです。顧客ロイヤルティはNPSを実施して把握し、9~10点の「推奨者」を対象にアップセル・クロスセルを行うと効果的です。

また、アップセル・クロスセルによる売上を長期的に維持するには、自社商品のアップデートや営業を継続的に行い、顧客からの信用を維持することがポイントになります。

Q.アップセル・クロスセルのために何ができるか?

A.アップセル・クロスセルの成約率を向上させるには、まずは目標金額や自社商品の特徴などに合わせてプライシングの方針を決めることをおすすめします。また、顧客が必要としている商品を適切なタイミングでおすすめできるように、自社商品のラインナップを充実させておくことも重要です。

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