2020年12月、経済産業省がDXレポートの中間報告書(DXレポート2)を公開しました。中間報告書では、DXの本質や緊急性を述べた上で、デジタルサービスの浸透をさらに加速すべく、民間企業が取るべきアクションについて記載されています。
今回は、 デジタル化に危機感を抱いている企業に向け、経済産業省のDXレポートを読み解くために必要なDXの基礎知識、具体的に企業が取るべきアクション、成功事例をご紹介します。
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参考:デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2』(経済産業省,2020年12月28日)
DXとは?
DXとは、簡単に説明すると「デジタルを利用した企業変革」です。ここではDXについて詳しく説明します。
DXの定義
DXの正式名称は、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」です。日本語に直訳すると、「デジタルを利用した変革」です。英語圏では「trans」を「X」と略すため、「DT」ではなく「DX」と表記されます。
DXを最初に提唱したのは、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授です。ストルターマン教授は、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と2004年に定義しました(総務省「平成30年版情報通信白書」)。
しかし、ストルターマン教授の定義は概念に近いため、企業がどのように行動すべきか、具体的なイメージがつきませんでした。ストルターマン教授が定義した「DX」を、より企業向けに定義したものが、2018年に経済産業省から発表されました。それが「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」です。
このガイドラインは、「DX の実現やその基盤となるITシステムの構築をおこなっていく上で経営者が押さえるべき事項を明確にすること」「取締役会や株主が DX の取組をチェックする上で活用できるものとすること」を目的として取りまとめられました。
このガイドラインでは「DX」を以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
手段を目的化してしまう、DXの誤解釈
DXを日本語に訳すと「デジタルを利用した変革」であるため、DX=「デジタル化」と誤認識しがちです。DXは、デジタルを利用した「企業」の変革です。デジタル化は企業を変革する「手段」であって、単なるデジタル化だけではDXを実現したことになりません。
DXを実現させるには、準備として2つのステップを踏む必要があります。
1つ目は、商品やビジネスプロセスをデジタル化する「デジタイゼーション」、2つ目は、デジタル技術を活用し業務を効率化する「デジタライゼーション」です。両者とも「デジタル化」を意味しますが、言葉の本質的な意味は異なります。
「デジタイゼーション(digitization)」は、「桁」を意味する「digit」から派生しています。コンピューターが「0」と「1」の二進法を使用することから、「デジタル信号化する」という意味を持ちます。そのため、「デジタイゼーション」は、ペーパーレス化、アナログ情報のデジタル情報化など、単なるデジタル化を意味します。
一方、「デジタライゼーション(digitalization)」は、「デジタル」を意味する「digital」から派生しています。「デジタライゼーション」は、デジタル技術を活用し、業務全体を効率化するビジネスモデルの変革を意味します。たとえば、DVDのレンタルを動画配信サービスに移行するなどが当てはまります。
「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」の2段階を踏むことで、初めてDXのスタートラインに立つことができます。
企業におけるDXとは
そもそもなぜここまでDXが重要視されるのか、というと、それは『2025年の崖』を克服するためです。『2025年の崖』とは、ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、国の経済が停滞し、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があることを指し示した言葉です。
多くの経営者が、企業成長、競争力強化のため、DXの必要性は理解しています。しかし、2020年の時点で、全体の90%以上が「DX未着手企業」もしくは「DX途上企業」です。DXの実現がこれほどまでに難航しているのは、業務がブラックボックス化しているからです。
企業におけるDXとは、単純に商品・サービス、業務プロセスにデジタル技術を導入するだけではなしえません。新しいビジネスを創造し、企業文化を変えることが必要となります。新しいデジタル技術を導入しても、ビジネスプロセスがブラックボックス化したままでは、データの活用・連携が限定的になってしまうのです。
DXを実現させるには、ビジネスプロセスそのものの刷新が必要となります。デジタル技術を活用し、ブラックボックス化した業務を根本的に変革することが求められます。当たり前のように行われていた企業文化・商習慣を変革することが重要です。
営業におけるDX
営業におけるDXとは、デジタル技術を活用し、営業全体の業務を最適化することです。DXを展開させるためには、営業プロセスの再構築と、IT活用スキルの育成が重要です。
営業は以前から効率の悪さが問題視されていました。HubSpot社の2021年の調査によると、日本の法人営業担当は「働く時間のうち20.2%が無駄」であると回答しています。これを金額換算すると、年間約6,650億円を無駄にしていることになります。
また、2019年の調査では電話やビデオ会議等を用いた「非訪問型営業」の導入率に関しては、日本が11.6%に対し、米国47.2%、欧州37.1%と日本の3~4倍であることが報告されています。海外に比べ、日本の非訪問型営業が遅れていることは明白です。
属人化された営業手法や顧客管理は、経営者にとって中身のわからないブラックボックスです。ブラックボックス化してしまった営業プロセスを再構築するには、基盤となるセールステック(営業を効率化するITツール)の導入や、既存システムの革新が必要です。
たとえば、インターネットを利用したオンライン商談が挙げられます。移動時間の削減がメリットとして挙げられていますが、最大の利点は「商談に他部門も参加できる」ことです。
訪問型営業では、商談に参加できるのは営業担当のみでした。しかし、オンライン商談であれば、システム職や経営者も同席が可能です。共有漏れを防ぎ、より洗練された商談をすることができます。
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【営業のDX】今こそ営業部門のデジタル化に取り組むべき理由
今、企業が取り組むべきDX
日本は他の先進国と比較すると、デジタル化が遅れています。スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2020」での日本の順位は、27位と前年度からさらに後退しました。
世界的に流行している新型コロナウイルスの影響もあり、国としての危機感は大変強いものとなっています。経済産業省は、DXをさらに加速するため、DXレポート2を発表しました。DXレポート2に記載されている「直近」「短期」「中長期」別に取り組むべきアクションを簡単にご紹介します。
直ちに取り組むべきアクション
まず直ちに取り組むべきアクションは、DXの基盤である「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」を実行することです。
これは、「働き方改革」にて推進されているテレワークやオンライン会議を取り入れ、「業務環境をオンライン化」することです。また、「業務プロセスをデジタル化」するために、ペーパーレス化やソフトウェア(SaaS、RPA等)を導入することも必要です。
そして、「顧客接点のデジタル化」するために、問い合わせ業務にチャットボットを導入することや、商取引を電子的に行うためにECサイトを開設するのも効果的です。
短期的に取り組むべきアクション
短期的に取り組むべきアクションは大きく分けて3つあります。それは、
- 「DX推進体制の整備」
- 「DX戦略の策定」
- 「DX推進状況の把握」
です。
「DX推進体制の整備」
経営層、事業部門、IT部門が、「DXとは何か」「自社ビジネスにどう取り入れるのか」といった内容について、関係者間で共通理解を深められるように対話の仕組みを整え形成することが重要です。そして、デジタル戦略をリードするCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)を設置し、役割・権限を明確化することが必要です。
「DX戦略の策定」
「人が作業することを前提とした業務プロセス」を、「デジタルが作業することを前提とした業務プロセス」に見直すことが必要です。そうすることで、大幅に生産性が向上します。定期的にプロセスの見直しを繰り返すことで、新たな価値を創造することが期待できます。
「DX推進状況の把握」
経済産業省がまとめた「DX推進指標」を活用し、現在の達成状況を認識する必要があります。関係者間で認識を共有することにより、次の段階へのアクションを明確化することができます。
中長期的に取り組むべきアクション
中長期的に取り組むべきアクションは、大きく分けて
- 「デジタルプラットフォームの形成」
- 「産業変革のさらなる加速」
- 「DX人材の確保」
の3つがあります。
「デジタルプラットフォームの形成」
まず自社の強みである競争領域と、強みと関係の薄い協調領域を識別します。協調領域には、パッケージソフトウェアを活用するなど、IT投資を抑制し、競争領域に余力投資分を割り当てます。協調領域に関しては、他社と協力し、共通のプラットフォームを形成することで、デジタル社会の基盤にもなります。
「産業変革のさらなる加速」
ITシステム構築には、市場の動向を捉えつつ、仮説と検証を繰り返し実施できる環境作りが重要となります。そのためには、迅速かつ柔軟に仕様変更が可能なソフトウェアの開発体制を社内に構築する必要があります。
「DX人材の確保」
DXの推進において、「人材の確保」は極めて重要です。特に企業の構想をITシステムとして落とし込む技術者には、常に最新の技術を学ぶことが求められます。そのために企業は、専門性を評価するしくみや、リカレント学習の導入、社外を含めた様々な人材が参画し、多様な価値観と触れ合える環境を作る必要があります。
企業のDX成功事例
具体的に企業がどのようにDXを実現させたのか、「富士通」「NTT東日本」「テスラ」の成功事例をご紹介します。
富士通のDX事例
富士通は、2019年に社長交代が行われ、DX企業として様々な変革を推進しています。2020年の4月より、年功序列が撤廃され、「エバンジェリスト」や「ビジネスプロデューサー」と呼ばれる職種を新たに設けました。
「エバンジェリスト」とは、最新テクノロジーやIT知識を顧客・利用者にわかりやすく説明する専門人材です。「伝道師(evangelist)」が語源となり、IT技術や製品の価値を人々に広く伝える役割からこのように呼ばれています。
理事・主席エバンジェリストとして活躍している中山五輪男氏は、年間300回もの講演活動をおこなっています。そして、講師として活躍しているだけでなく、若手のエバンジェリスト育成もおこなっています。
また富士通では、「営業」という組織名を無くし、新たに「ビジネスプロデューサー」職を設けました。「ビジネスプロデューサー」とは、企業が顧客と共に新しい価値観やビジネスを共創・構築する職種です。
ITの定着や発展を担う「エバンジェリスト」は、専門的な視点から正確な情報を伝え、「ビジネスプロデューサー」と共に課題を解決します。彼らが啓発活動を行うことで、顧客の認知が深まり、新しいビジネスへと繋がってゆくのです。
NTT東日本のDX事例
電気通信事業者であるNTT東日本は、新たにインサイドセールスチームを構築しました。インサイドセールスとは、取得したデータをもとに見込み客を見極め、適切なタイミングでアプローチを仕掛ける営業手法です。
潜在顧客の獲得(リード獲得)から契約まで行うインサイドセールススチームでは、まず営業をオンライン化し、数値を細かく分析しました。分析結果に基づきPDCAサイクルをまわすと同時に、社内体制を根本的に変更し、スタッフの育成にも注力しました。
その結果、リード獲得は10倍を超え、受注率は3~4倍となりました。
テスラのDX事例
米自動車会社のテスラは、2019年に店舗を閉鎖しオンライン販売への移行を発表しました。車を購入後、7日もしくは1,000マイル以内であれば全額返金で車の返却が可能となるシステムをつくることで、購入前の試乗問題を解決し、完全にオンライン上で営業が完結するシステムを作り上げたのです。
実店舗による営業活動を廃止しオンライン化したことで、業務効率化が上がり、コスト削減に繋がりました。その分、車の価格を平均で6%引き下げることができたため、顧客満足度も上がり、リピーター数が増加しました。
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Q&A
DX最後に今回の内容をQ&A形式で振り返りましょう。
Q.DXの定義とは?
A.経済産業省によるガイドラインでは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。
Q.DXに関する誤った解釈と本来の意味とは?
A.DXとは、デジタルを利用した「企業変革」で、単純な「デジタル化」ではありません。DXの目的は、新しいビジネスを創造し、企業文化を変えることです。
Q.企業がDX推進のために取り組むべきアクション例には何があるか?
A.まずは、テレワークやペーパーレス化を推進し、業務環境や業務プロセスをデジタル化することが挙げられます。次に、体制の整備や戦略の策定、現時点で自社はどの程度DXが進んでいるのか、という現状を把握し、部門間で共通認識を持つことです。そして、デジタルプラットフォームを形成し、産業変革を加速しつつ、人材の確保・育成することが重要です。
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