不動産業界は対面営業を基本としており、大手企業以外ではリモートワークや在宅ワークはほとんど進んできませんでした。しかし、急速なデジタル化や昨今の感染症流行に伴い、顧客側からもデジタル化の要請が強まっており、不動産業界もその波に乗らざるを得ない状況にあります。
本記事では、不動産業界においてDXやテレワークを導入する上でのメリットや課題、実際に不動産業界の営業でDXを活用できた成功事例についてご紹介します。
【営業スタイルの多様化・DX化】未来の営業とその実現に向けた処方箋
今後求められる不動産業界の営業のあり方
2020年の新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言により、政府からテレワークの要請が出されました。
今回の感染症流行が収まったとしても、今後また新しい感染症の流行や地震や台風などの災害によって従来のような営業が困難になる可能性は高く、テレワークや店舗にご来店いただかなくても営業できる環境を整えておくことは大変重要です。
このような状況を打破するのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。DXとは単にIT活用だけでなく、ITの活用によってビジネスモデルや組織、企業風土などを変革することで環境の変化に対応し、企業の競争優位性を確立することまでをさします。
よく”レガシー産業”の1つに数えられる不動産業ですが、今後の不動産業界の営業においてはこのDXの推進がポイントとなります。
不動産業界もデジタル化が求められる
不動産業界におけるデジタル化には二つの側面があります。
一つは社外向けのDX化で、非対面での接客を求める顧客のためにオンライン内見システムや電子契約システムを導入したり、Web会議システムを導入してオンラインで商談をおこなえるようにすることです。
もう一つは社内向けのDX化で、働き方改革に伴い、テレワークで利用するWeb会議システムや勤怠システムを導入したり、営業支援システムを活用したりすることです。
不動産業界でデジタル化が進めば、そこで働く従業員のワークライフバランスが尊重され、テレワークのような柔軟な働き方ができるようになります。営業においては、非対面での接客を求める顧客の満足度を高めることができ、企業側にとっても交通費や出張費などの削減が可能となります。
不動産業界特有の商習慣とコミュニティがDXを阻む
今まで不動産業界でDXが進まなかった理由は、不動産業界特有の商習慣、そしてクローズドなコミュニティにあると言われています。
特に圧倒的な紙文化やハンコ出社といった従来型の習慣に象徴されるように、ペーパレス化が叫ばれ、印鑑廃止の流れがある中にあっても、不動産の営業場面では、売買や賃貸契約で大量の書類への署名や捺印が求められていました。
顧客の立場から考えると、内見から契約締結まで何度も現地や店舗に足を運び、何十枚もの書類に住所や氏名を記入して捺印する手間がかかります。営業担当者もそのために出社して対面で対応しなくてはならないので、在宅勤務やテレワークが実現できず、双方にとって不利益な状態が続いていました。
経営層から現場まで、全社でDXの意義を理解することが重要
このような状況を打開できるのがDXの推進ですが、DX推進で重要なのは、経営層から現場まで全社的にDXの意義を理解することです。
経営層にとってはDX化によってコストカットや働き方改革の実現という点で意義を理解していても、前述したように不動産業界においては特有の商習慣やコミュニティがあるため、営業現場の抵抗を受けることが少なくありません。反対に営業現場がDXの意義を理解していても、経営層にとっては費用対効果を感じづらく導入の意義を感じられない、という場合もあります。
全社でDXの意義を理解し、経営層と営業現場の双方が共に納得感を持っていなければ新しいシステムを導入しただけで不満が募っていき、DXは形骸化してしまいます。
顧客ニーズに合わせ、手続きをデジタルで完結させる
最近では生活のさまざまな場面の手続きがデジタル化されています。たとえばわざわざ役所や店舗におもむかなくても手続きが完結できるなど、便利なシーンが増えています。
もちろん不動産業界もそのような顧客のニーズにこたえていく必要があります。デジタルに慣れた顧客はスピード感のある対応に慣れているため、顧客管理ツールを導入していれば営業担当者以外でも以前のやりとりの履歴を踏まえてスムーズに対応することが可能になり、顧客の満足度も上がります。
VR内見システムを利用すれば、わざわざ顧客に来店してもらって対面で物件を確認しなくても、オンライン上で内見を進めることができます。ローン契約や決済もオンライン化すれば、一度も対面で対応することなく手続きを完了することも夢ではありません。
長らく不動産業界のデジタル化を阻んできた特有の事情として、重要事項説明書の存在がありますが、これも2017年から「IT重説」といってオンライン営業システムでの実施が可能となっています。
もちろん、住宅でもオフィスでも実際に見てみたいと思われるのは当然ですから、必ずしも全営業工程をオンライン化する必要はありません。
デジタル化は素晴らしいものである一方、不動産業界の営業には馴染まない部分もありますし、デジタル化に積極的ではない顧客も存在します。こうしたことを踏まえると、アナログで残すべきところは残し、デジタル化できる部分はデジタル化するという「ハイブリッド」営業が望ましいのではないでしょうか。
【営業DX】いま取り組むべきデジタル×アナログのハイブリッド営業とは?
不動産業界がDX・テレワークを推進するメリット
このように不動産業界の営業場面での顧客ニーズとして、デジタル化は避けては通れないことがおわかりいただけたかと思います。
そして実は不動産業界がDXを推進することは、顧客側のメリットだけではなく不動産業界で働く人たちにとってもテレワークでの営業が可能になるなど働き方の上で大きなメリットがあります。
たとえば社内会議はテレワークの従業員も含めてどこにいてもオンラインでおこなえますし、モデルルームでの直行直帰のリモートワークを実現すれば、顧客の営業はオンライン内見で対応でき、通勤の負担も減らすことができます。
生産性の向上
DXの推進で社内システムに安全に接続できるようになれば、営業担当者がテレワークをする際は、会社にいるときとほとんど変わらない環境で資料を閲覧、編集することができます。
また顧客管理システムが申込から契約、入金管理まで一元管理できるようになれば、従来別々のシステムに再入力していたような煩雑な事務作業がなくなり、生産性の向上が期待できるでしょう。
働きやすさの向上
不動産業界の営業は土日や祝日が勝負ですので、それら日でも出社することが当たり前でした。しかしテレワークの推進によって自由度が増し、働きやすさが向上します。
今まで育児や介護との両立、通勤時間や居住地がネックになって働けなかった層がテレワークで働けるようになれば人材不足が解消できるため、従業員のワークライフバランス面だけでなく、経営層にとっても大きなメリットになります。
さらに、時間や場所に拘束されないことでストレスが減り、営業場面でも柔軟な発想を生かした新しい手法を生み出すかもしれません。
レガシーシステムからの脱却
古いシステムを刷新しないまま新たなDXの波に乗れなかった企業が多くの事業機会を失うだろう、と言われているのが「2025年の崖」です。経済産業省は2018年、来たる2025年には21年以上稼働しているレガシーシステムがシステムの全体に対して60%を占めるだろう、と公表しています。
DXの推進によってレガシーシステムから脱却できれば、2025年の崖を克服し、営業機会を増やせるメリットがあります。
経産省のDXレポートから読み解く本当に企業が取り組まなければならないデジタル革命とは
感染症流行などの世の中の動き
新型コロナウイルス感染症の流行で、世の中にはニューノーマルと呼ばれる生活様式が定着しました。不動産の営業においてもDXやテレワークを推進することで、非接触の営業を求める多くの顧客の満足度を上げたり、従業員が安心して働けることによって定着率を上げることができるメリットがあります。
不動産業界のDX・テレワーク導入における課題
このように不動産業界の営業において多数のメリットがあるDXやテレワークの導入ですが、思うように進まない理由、解決すべき課題としてどのようなことがあるのでしょうか。
現場のITスキル・知識の不足
不動産業界の営業は長年に渡ってIT化が進まなかったため、他の業界と比較すると現場のITスキルや知識が不足している従業員が多いといえます。
テレワークでは基本的な業務を自宅で一人で遂行できることが求められます。従業員同士の情報共有においてチャットツールやWeb会議システムを使いこなし、営業開始時間の記録などは勤怠管理システムで登録するなど、最低限のシステムを利用できなければテレワークは進められません。
DXやテレワークを推進するには、まず営業現場のITスキルを一律に一定レベルまで引き上げなければならない課題があります。
【テレワークと勤怠管理】直面しがちな問題の解決方法と解決に役立つツールについて
既存システムのスパゲッティ化
前述した2025年の崖の話とも通じますが、不動産業界の営業では既に導入されているシステムがスパゲッティ化していることが少なくありません。スパゲッティ化とは、システムのプログラムがスパゲッティの麺が絡み合ったように複雑化しており、論理構造の把握が困難な状態をさします。
スパゲッティ化した既存システムから、テレワークの推進やDX推進の新しいシステムに移行しようとすると、さまざまな問題が発生しスムーズに移行できない、という課題があります。
費用対効果がわかりづらい
2020年5~6月に、イタンジ株式会社と不動産テック協会、不動産テック企業各社が共同実施した「不動産業界のDX意識調査」の結果によると、DX推進に対する課題として「費用対効果がわかりにくい」が24%で、1位の「知識・情報・ノウハウを持っていない」(27%)に迫る数でした(会社規模50人以下におけるDX推進レベル)。
費用対効果がわかりづらいからと言って導入そのものを躊躇していては、前述した2025年の崖を克服できません。
不動産業界の営業のDXやテレワーク推進のためのシステムには、無料トライアルがあるものもあります。無料トライアル期間中に営業での効果を計測したり、実際にテレワークをしてみて生じる疑問を積極的にサポート担当者に質問したりして、課題を解決していくことをおすすめします。
【事例に見るテレワーク導入までの7ステップ】すぐわかる導入のポイントを解説
不動産業界におけるDXの成功事例
それでは実際に不動産業界においてDX化に成功した事例を2つご紹介します。
野村不動産アーバンネット株式会社の事例
野村不動産アーバンネット株式会社は、2020年5月の緊急事態宣言中に営業のオンライン化に取り組んだところ、コロナ禍ということからもお客様の反応も上々でした。しかし緊急事態宣言が解除されるとまた以前の状態に戻ってしまったことに危機感を感じました。
そこで必ずオンライン商談を設けてから来場するという営業フローに変更し、そこで何度もPDCAを回しました。結果としては一顧客あたりの工数を大幅に減少させながらも、成約率を上げることに成功し、お客様の反応も大変良かった、という成功事例です。
株式会社タカラレーベンの事例
株式会社タカラレーベンは、コロナ禍におけるモデルルームへの来場数減少対策として、新たにオンライン営業を取り入れました。
外出自粛要請中でも来場せずに商談ができるというメリット以外にも、若い夫婦などが遠方に住む親御さんを説得するのにオンライン営業を活用できたり、感染リスクの高い高齢の親子へのご案内への安心材料になったりというメリットも見つかったそうです。昨年の新プロジェクトでは、オンライン商談から来場に繋がった数は、現地来場と同等レベルの65%という高い結果となりました。
まとめ・Q&A
不動産業界においてテレワークやDXを活用した今後の営業あり方や課題、成功事例ついて解説しました。最後に、本記事の内容をQ&A形式でまとめます。
Q.不動産業界に求められるこれからの営業のあり方とは?
A.DXを活用し、顧客側だけでなく不動産業界の従業員にとっても負担の少ない状態での営業が今後求められるでしょう。
Q.不動産業界がDX・テレワークを推進するべき理由は?
A.従来型の商習慣やシステムから脱却し、働き方改革や感染症対策といった現代社会の問題に対応するためです。
Q.なぜ不動産業界においてDX・テレワークが進まないのか?
A.IT知識の欠如や旧システムから脱却できないこと、費用対効果がわかりづらいなどの理由によりDX・テレワークが進んでいません。
この記事を読んだ方におすすめ
・【営業のDX】今こそ営業部門のデジタル化に取り組むべき理由
・【オンライン営業に必要なもの完全網羅】業務フロー、評価制度基準、ツール類までお教えします
・【人が辞めないマネジメント】電話営業組織の離職率を下げる4つの方法