【Kaizen Platform須藤氏に聞く②】緊急事態に中小企業が取るべきビジネスモデルの大転換

2020年12月に東証マザーズへ上場したKaizen Platform。その代表取締役である須藤憲司さんは「緊急事態宣言前から、新しいサービスを考え次々とリリースした」と言います。しかも、3月下旬から全社的にフルリモート体制に移行し、セールスチームもオンライン化したのだそうです。

コロナ禍では既存のサービスの需要が下がり、売り上げを落とした企業もあるでしょう。このとき、市場の変化をどうキャッチし、自社のビジネスモデルやセールス方法を転換すればよいのでしょうか。

須藤さんに、なぜすばやく方針決定できたのか、どのように新しいサービスを次々とリリースできたのかについて聞きました。

※本記事は全2回の連続企画です。「【Kaizen Platform須藤氏に聞く①】BtoB企業のDXはどう進む? エンタープライズ営業はどう「THE MODEL」化すべき?セールスの新常識への疑問をぶつけてみた」へのリンクはこちら

株式会社KaizenPlatform
代表取締役 須藤 憲司さん

2003年株式会社リクルートホールディングス⼊社後、マーケティング部⾨、新規事業開発部⾨を経て、リクルートマーケティングパートナーズ最年少執⾏役員(当時)として活躍。2013年にKaizen Platformを⽶国で創業。著書に『90日で成果をだす DX(デジタルトランスフォーメーション)入門』(日本経済新聞出版)、『ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論〜』(NewsPicks Book)

歴史上、2年以上続いた経済危機はない

――新型コロナウイルスが感染拡大をはじめたとき、Kaizen Platformではまず何からはじめたのですか。

須藤:僕の場合、2020年2月後半くらいから「これは大変なことになる」と直感して、様々な方とディスカッションをはじめたんです。

その中で、ボストン コンサルティング グループの日本代表、杉田浩章さんとお話していた時こんなことを教えてもらいました。「これまでの歴史上、2年以上底が続いた経済危機はありません。その2年をどう生き延びるのか考えた方がいいと思います」と。明確に「2年」という期限が切られたことで、戦略を練りやすくなりました。

そこで考えたのが、3パターンの売り上げシミュレーションです。1つ目は、売り上げが前年並である場合。2つ目は、前年比7割程度のダウントレンドになる場合。そして3つ目は、最悪、前年と比べて半分ほどの売り上げに下がってしまう場合。

この3パターンについてシミュレーションし、そのときどのようにサービスを展開し、どのコストを削減するのかについて徹底的に考え、すばやく意思決定。4月初旬のミーティングでは社員に発表していました。

――緊急事態宣言前にはあらゆるリスクシミュレーションが済んでいたわけですね。どのようにこの「最悪」の数値を読み解いたのですか。

須藤:シンプルに、売り上げが0から100までどこに着地するのか予測しました。当社の場合、こういう言い方はよくないかもしれませんが、店舗があるわけではないので平日9―18時まで通常通り営業できるだろうと思っていました。つまり売り上げが完全に0にはならないだろうと。

とはいえ、前年同様の売り上げが立つとも思えません。そこで、自分のいる業界がどれぐらいこの緊急事態の影響を受けるのかを考え、売上予測を立てました。

リスクシミュレーションについて話す須藤氏の写真

――このとき行った「フルリモートでの新規営業」について詳しく教えてください。

須藤:当社の場合は、コロナ前からもともとオンライン営業を取り入れていたので、すでに様々なオンラインツールに慣れ親しんでいました。そのおかげで3月の下旬くらいからフルリモート体制に移行。そのときもメンバーがすぐフルリモートの営業活動に慣れることができたのはラッキーだったと思います。

インサイドセールスやフィールドセールスの領域でも、ベルフェイスをはじめとしたオンライン会議ツールをそもそも導入していたのかどうかで、コロナ禍におけるリモート営業体制の構築に明らかに差がついたのではないかと思います。

【営業DX】今こそ営業部門のデジタル化に取り組むべき理由

ステイホームのときはコンテンツを強化

――Kaizen Platformでは、4月に次々と4つの新サービスをリリースしましたよね。これはどのような戦略で、どのように考えたのですか。

<Kaizen Platformがコロナ禍にリリースした4つの新サービス>
・リモート環境での営業活動を支援する「営業資料の動画化
・コールセンター/カスタマーサポート(CS)業務を動画で支援する「FAQ・マニュアルの動画化
・リモートでの採用活動をサポートする「採用向けコンテンツの動画化
・デジタルでの販促をサポートする「パンフレット・カタログの動画化

須藤:こうした緊急時に重要なのは、自社のビジネスを社会にとって必要火急のサービスへと転換することです。不要不急のものは必要性が薄くなるため、顧客にとって優先度が下がってしまいます。

そこで僕たちは3月中、営業の定例会議でお客さまから寄せられる課題やニーズ、困りごとについて、営業パーソンから徹底的に情報収集しました。「いま、お客さまからどのような相談ごとが寄せられているのか」「お客さまのペインは何なのか」ということについて、ひたすら話を聞いていきました。

すると「営業パーソンのみなさんが、非対面で営業活動を行う際に営業資料がなくて困っている」「コールセンターが密になってしまうので、出社人数を減らしている。その結果受電率が下がってしまった」「新卒採用のピークを迎えるが、学生を来社させられない」といった現場の困りごとが続々と寄せられたのです。

最終的には4つのサービスに集約されましたが、その頃営業パーソンからは、サービス化しなかったものも含め、お客さまから寄せられる相談ごとをとにかく全部洗い出していきました。

こうした緊急時には、事態の変化に伴って生じるお客さまのペインをすばやくたくさん洗い出し、どうしたらそれを自社のアセットで解決できるのか、という観点で新しくサービスにしていきました

――こうして生まれた新サービスをどのようにプロモーションしていったんですか?

須藤:こうして考えたサービスを4月から順次リリースしていったのですが、同時にプレスリリースの動画化や個々の営業担当者によるSNSでの発信も行い、拡散力を高めました。

こうして多くのコンテンツをウェブ上に置いておくことで、自社コンテンツが顧客の目に留まるような仕掛けを施し、インバウンドでの問い合わせが増えるように工夫しました。

その結果、営業資料の動画化を中心にお問い合わせ圧倒的に増えたんです。そのときお客さまが最も困っていることを優先度高くサービス化していったことに間違いはなかったと思いました。こうした緊急時は、お客さまの困っている順にサービスをつくり、社会に問うてみることで自ずと優先順位は決まってくると思います。

ムリ・ムラ・ムダを減らし、やめることを決める

――多くの企業が、顧客の役に立つサービスを提供したいと考えていても、実際はベテラン社員の意見や組織の論理が優先されてしまいます。こうした緊急時の意思決定で重要なこととは?

須藤:「ムリ・ムラ・ムダを減らす」ことです。いくら努力しても、僕たちの力だけでは新型コロナウイルスの感染拡大を減らすことはできません。ましてやこのような緊急時に、飛び込み営業をさせたり、やみくもに架電させたりしてもご迷惑をおかけして徒労に終わるばかり。営業パーソンを疲弊させるだけです。

そのとき「ムリ・ムラ・ムダ」を減らすことは、社員を守り、売り上げを確保することに繋がります。たとえばお客さまの困りごとをサービス化することは、社員の「ムリを減らすこと」に繋がります。そして新しくつくったサービスですから社員によって説明スキルに差が生まれてしまいますが、その差をへらすために営業資料やプレスリリースを動画化すれば「ムラを減らす」ことができます。それをSNSで拡散し、ウェブサイトや電話でインバウンドを獲得することで営業活動の「ムダをなくすこと」が可能です。

こうして、「ムリ・ムラ・ムダを減らす」戦略を取ることで、成果に直結する戦略へと舵を切ることができ、社員が疲弊することなく緊急時にも生き延びることができるんです。

フルリモート体制で業績を伸ばすために重要なことは、とてもシンプルです。成果の上がらないことをまずやめる。そこからはじまるのではないかと思います。

営業活動のムリ・ムラ・ムダを減らす戦略について話す須藤氏

――こうした緊急時に、組織が持つべき姿勢とはどのようなものでしょう。

須藤:緊急時に必要なのは、組織のアジリティ(俊敏性)です。ある組織が方向転換するときに、その方向転換をできるだけすばやく完了できるほど、変化への適用度が高いということになります。

こういうとき、方向転換が遅い組織は、凄まじい環境変化のなかで負けてしまいます。カリスマ経営者の鶴のひと声で動くような、トップダウンかつ統制型の組織はリーダーの判断が遅れてしまうと方向転換しにくい。社員一人ひとりが自律的に動ける組織になっているかどうかが、緊急時にアジリティ高く変化していけるかどうかの命運を分けると思います。

――昨年の緊急事態宣言発令時も、組織のトップや部長クラスがリモート環境に対応できず訪問営業しなければならなかったり、逆に「一切外に出るな!」と言われ売り上げゼロになってしまった企業もあったと聞きます。今後も社会情勢は著しく変化するでしょう。そのとき、アジリティの高い組織であるためにどうすればいいのでしょうか。

須藤:もう、最終的には自分自身で判断していくしかないと思うんですよ。会社が変わらないなら自分が変わる。まずは自分の意識から変えていく。つまり、組織が時代の変化に対応してくれないなら、転職するなどして会社を変わるという選択も含めて考える方が良いと僕は思うんです。

社会情勢の変化って、トランプゲームの大富豪のルールが変わるのと同じだと思います。それまで手持ちのカードの数字が大きい方が強者だったのに、誰かが「革命!」って叫んだ瞬間から、カードの強さが反転する。

その反転したルールに、どれだけすばやく対応するか。最終的には、そこに個人レベルで瞬時に適応することでしかこの変化についていくことはできないんじゃないかと、僕は感じています。

撮影/森川亮太 (箕輪編集室)

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