新型コロナウイルスの感染拡大で、思うような営業活動ができずに悩んでいるセールスパーソンの間で話題になっている『シン・セールス理論の完全解説|ニューノーマルで選ばれる、購買体験とセールスコンテンツ』(以下、シン・セールス理論)。
前回に引き続き、この記事を書かれた、営業代行や営業コンサルティングを手掛けるセレブリックスのセールスエバンジェリスト、今井晶也さんへのインタビューをお届けします(前編はこちら)。
前編では営業ノウハウ系の記事としてはnoteやイベントで注目されているシン・セールス理論を執筆した背景を中心にうかがいました。後編では営業がいかにコンテンツを活用すべきか、その具体的な方法について掘り下げていきます。
株式会社セレブリックス営業企画本部 本部長
セールスエバンジェリスト 今井晶也さん
セレブリックスのセールスエバンジェリストとして、セールスモデルの研究、開発、講演をおこなう。商品内容に依存されない、B2Bセールスの普遍のバイブルとなる“顧客開拓メソッド”を執筆、制作。Everything DiSC®️の認定トレーナーであり、専門は営業、プレゼンテーション、コミュニケーションスタイルと多岐に渡る。現在は営業企画本部本部長として、セレブリックスのコーポレートブランディング、事業企画、マーケティング、採用活動の統括責任者を兼任。代表的な活動(講演内容)として、セールスNo.1グランプリの審査員や、テレワークカンファレンスでの基調講演、宣伝会議主催のセールスコンテンツ講座の講師実績がある。
キレイで体裁が整ったコンテンツは不要。大事なのはスピードとタイミング
前編では、顧客の購買環境が大きく変わり、コロナが与えた営業の3ロス(①繋がらない、②会えない、③買ってもらえない)という変化があったと指摘がありました。
営業は購買環境の変化を乗り越え、顧客との関係を再構築するために何をすべきなのでしょうか。
—— 前回、今井さんは営業がニューノーマル時代に適応するには、コンテンツを活用すべきだと指摘されました。コンテンツとは具体的に何を指すのでしょうか?
今井:私のいう「コンテンツ」には大きくわけて2種類あります。ひとつは、業界トレンド情報や事例集など、業界のみなさんがおしなべて関心を示しそうな「マーケティングコンテンツ」。
もうひとつが、商談相手の行動や態度の変化を直接促す「セールスコンテンツ」です。セールスコンテンツには、ヒアリングをもとに作成した導入シミュレーション、お客様と共通点が多い企業の成功事例、競合比較表などが含まれます。
—— セールスコンテンツといっても、特殊な内容である必要はないのですね?
今井:そうなんです。セールスコンテンツに期待する役割は4つのみ(以下参照)なので、これらに該当していれば、オンライン商談でも有効に機能するセールスコンテンツとして活用することが可能です。
<セールスコンテンツに期待する役割>
■ 会話や意見交換が生まれるキッカケ(引き金)になる
■ 買い手の現状や目標に ”問い” が生まれ、行動変容のキッカケになる
■ 買い手の反論やネガティブに対抗(切り替え)する手段となる
■ どんな営業パーソンが活用しても同等の成果や効果が得られる
今井:大事なのは、これまでトップセールスがリアルな商談の場でおこなってきたようなプロセスをオンライン上で再現し、お客様の“買う気”を刺激すること。必ずしも作り込んだ資料や美しい体裁にこだわる必要などありません。それよりも大事なのは商談のスピード感とライブ感なんです。
—— とはいえ、オンライン商談では相手の反応が読みづらく、やりにくいという悩みをよく耳にします。どう対処すれば?
今井:確かにオンライン商談では、こちらの説明を真剣に聞いてくださっているのか、それとも商談とは無関係なメールを読んでいるのか、画面越しに感じとることはなかなかできません。しかし商談に適切なセールスコンテンツを使って、営業がスピード感とライブ感を活かしたプレゼンを仕掛ければこうした悩みも解消できるんです。
—— 具体的に聞かせてください。
今井:オンライン商談では、画面共有機能を利用する機会が多いと思いますが、ほとんどの営業が資料を表示し、読み上げて満足しています。それだけではもちろんダメです。スライドを見せながらポイントとなる部分にマーカーを引いたり、◯印で囲んで強調したり、お客様の発言を書き留めるなど、ライブ感を大事にしながら、お客様の関心を画面に集中させる工夫が必要になります。
こんなことを申し上げると「そんな難しいことはできない」と思われる方がいるかもしれませんが、パワーポイントの「インク注釈機能」を利用すれば、どなたでも簡単に使えます。実は知らないだけで、身近なソフトにもプレゼンに使える機能はたくさんあるんです。
さらに今井さんは、プレゼンに使うセールスコンテンツは完璧でなければならないという考えも捨てるべきだといいます。なぜなら、セールスコンテンツはお客様が知りたいことをお伝えするツールであると同時に、まだ掴み切れていないお客様の状把を把握するためのツールでもあるからです。
今井:プレゼン時に用いるセールスコンテンツを事前共有して、お客様ご自身に商談のイメージを持っていただいたり、商談中に書き込んだ資料を議事録代わりにお渡ししたりするのもいいでしょう。こうしたプロセスを挟むことで、お客様のなかに当事者意識が育まれ、商談に対して能動的な気持ちで臨んでいただける確率が高まるからです。
セールスコンテンツはお客様と一緒につくるもの。そう考えるだけでも、プレゼンのスタイルもオンライン商談に適した内容に変わっていき、お客様の行動変容を促すことにつながると今井さんは力説します。
今井:もちろん提案内容が魅力的であることは大事ですし、雑に作ったセールスコンテンツが効果的なわけではありませんが、最低限、伝えたいことが伝わる内容であればそれで十分。見た目がキレイなコンテンツをどう作ればいいか悩む必要はありません。
それよりもむしろ、お客様の振る舞いや言動に着目して、的確な情報をすぐにお伝えすることに気を配るべきです。お客様と双方向的なコミュニケーションを重ねることで、お客様の行動変容を促す可能性は格段に高まると思います。
セールスコンテンツを継続的に「ギブ」し、信頼関係を構築すべき
シン・セールス理論では、旧来のセールス手法とニューノーマル時代のセールス手法の違いを明快に解説されていました。しかし、記事内ではカバーしきれなかった部分がまだあると今井さんは振り返ります。
—— どんな内容か詳しく教えてください。
今井:いままでお話ししたように、シン・セールス理論の重要なポイントは「セールスコンテンツを活用して商談を成功させること」にあるわけですが、営業にとってもうひとつの関心事があります。
それは「リードをいかに獲得するか」です。折角ですからここでは、そのポイントについてもかいつまんでお伝えしたいと思います。成功のカギは「ギブ」を重視した営業です。
今井さんは営業は売上を獲得することが一番に求められるため、情報を取る、受注を勝ち取ると、常にテイク(Take)を意識しがちです。しかし、ギブ(Give)を起点にした発想と行動を取り入れると、お客様から愛される営業に近づくことができるといいます。
—— どういうことでしょうか?
今井:まず勘違いしてはいけないことが、こんな状況でもお客様は「必要であれば買う」ということです。
であれば、営業が一番大切にしなければいけない発想が、「買いたいタイミングで営業する」ということです。
不思議な話ですが、普段あれだけ営業を毛嫌いしている購買担当者も、必要なタイミングで営業して貰えることは大変ありがたいことなのです。
つまり、営業の成果を左右するポイントは「いつなら買うか/どうして買うか」を知っているかどうかということなのです。
この購買タイミングが明確になったリード情報のことを、私達はSOL(Sales Opportunity Lead)と呼んでいます。
特に新規開拓営業では、このSOLを営業プロセスの中で獲得できているかどうかが成果インパクトが大きいと言っても過言ではないでしょう。
しかしここで問題があります。お客様は縁も縁もない営業パーソンに、購買タイミングや購買理由を快く話してくれるでしょうか?
答えはNOです。ましてや新規営業であれば、関係性も出来ていない「他人」なわけです。そんな他人に懇切丁寧に情報を開示してくださることは稀でしょう。
こうした状況を好転させるためには、Push営業でもPull営業でも、コンテンツを活用し、先に役に立っておき、お客様にとって価値のある人になっておくことが大切だと今井さんは説きます。
そのコンテンツがお客様の関心事にリーチする内容であれば、お客様との心理的な壁は薄くなり、情報を開示して貰えるようになります。すると「いつなら買ってもらえそうか」という商談機会のヒントを得やすくなりますし、営業活動のタイミングをコントロールしやすくなるのです。
—— 「信頼関係の構築はアポイントを取ってから」という固定観念は改めるべきかもしれませんね。
今井:はい。テレワークがこれだけ普及した現状では、お客様がいつご出社されるかわかりませんし、お会いできたら信頼関係が築けるかといえばそれはまた別の話です。
対面を前提とした旧来型のセールスプロセスはいったん忘れ、セールスコンテンツをうまく活用して、お客様と信頼関係を築くことを先行させるべきだと思います。
もちろん目先の売上にこだわるのは大切なことです。ギブだけでは営業は成り立たないと思う気持ちはわかります。しかし初回のアプローチが不調だったからといって、二度と顧みないのはあまりいい判断とはいえません。なぜならいつか訪れるかもしれない商機を完全に失うことになるからです。
今井:諦めてしまえば受注の可能性はゼロですが、中長期的な視点で信頼関係を築けばその後から挽回のチャンスはめぐってきます。お客様を育てるというよりは、気付きを与えていく、新しい価値観を体感いただく機会をつくる、という感じが近いかもしれません。事例資料や業界レポート、ユーザーボイス等、手段は様々ありますが、購買検討ステージに合わせた、関心事に近いコンテンツで意欲を引き上げることが目標です。
例えばプッシュ営業で電話を架けたとします。その際に直ぐにクロージングを迫り、APO or Dead にするのではなく、初回接触の段階で、役に立てるコンテンツをお渡しするのです。
お客様に役に立ったという過程を経て、顧客情報の収集やSOLを獲得しましょう。このセールスプロセスをGiveモデルと呼んでいます。
【営業のクロージングとは】成約率を上げる15のコツとプロセスを解説
最後に今井さんから、ニューノーマル時代の営業のあり方を模索しているみなさんにメッセージをいただきました。
今井:シン・セールス理論は、ゲームでいえば「攻略本」ですし、料理でいえば「レシピ本」のようなもの。
ですから自分に必要だと思われる情報だけでも吸収して、後は自由にアレンジして活用してみてくださって構いません。
ニューノーマル時代の営業のセオリーはこれからみなさんが作り上げていくものなのですから、だれも経験したことのない変化を楽しむぐらいの気持ちで乗り越えていただきたいですね。
どのような状況にあっても売れる営業は存在します。日々の営業活動に苦労されているなら、ぜひ一度シン・セールス理論に目を通してみてはいかがでしょうか。ブレイクスルーにつながるヒントが見つかるかもしれません。
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