近年、営業活動の生産性を上げる「インサイドセールス」と呼ばれる手法が注目されています。
元々インサイドセールスとは、見込み顧客の獲得から受注までを社内にいながら完結させる内勤型営業という意味で、国土の広いアメリカやヨーロッパで広まってきた営業手法です。近年は、日本でも働き方改革や営業生産性向上を背景に徐々に浸透してきており、インサイドセールスに取り組む企業もどんどん増えてきています。
今回は、インサイドセールスの中でも、商談機会の獲得までを担い、その獲得数やそこからの受注金額の最大化を目指す分業型インサイドセールスについて、株式会社ビズリーチでHRMOS採用事業部 インサイドセールス部 部長を務める茂野明彦さんに、「明日から変わる」インサイドセールスの極意というテーマで、
- インサイドセールスの適切なオペレーションルール
- 事業フェーズに合わせたKPI設計
- 顧客と信頼関係を築くコミュニケーション
をお伺いしてきました。
インサイドセールスに取り組んでいる方、これから取り組む予定の方は必見です!
株式会社ビズリーチ HRMOS採用事業部 インサイドセールス部 部長
茂野 明彦さん
大手インテリアメーカーを経て、人材系ベンチャー企業に転職。5年間大手通信会社に出向後、自社に戻り研修事業を立ち上げる。2012年8月、株式会社セールスフォース・ドットコムに入社し、グローバルで初のインサイドセールス企画トレーニング部門立ち上げに携わる。2016年12月、ビズリーチ入社。インサイドセールスグループとマーケティンググループを統括後、現在はHRMOS採用事業部 インサイドセールス部 部長を務める。
茂野さんとインサイドセールスの出会い
ーQ. やっぱり「インサイドセールスといえば茂野さん」というイメージも強いのですが、そもそもインサイドセールスとの出会いはどういうものだったのですか?
茂野(以下敬称略):私はビズリーチに入る前はセールスフォース・ドットコムにいたのですが、そこで初めてインサイドセールスと出会いました。初めは結構ネガティブに思っていて、その前は小さいながら1つの事業を任せてもらうような仕事をしていたので、そこから「電話かける仕事?」と反感を持ったのを覚えています。しかし、インサイドセールスに取り組む中で「これは生産性向上が必要とされている今の日本にとっては画期的な仕組みだな」と感じるようになり、このインサイドセールスを極めて日本に広めていきたいと思うようになりました。
茂野:ちなみに、インサイドセールスを日本に広める取り組みの1つとして、ビズリーチ主催でInside Sales Conferenceを開催しています。これからインサイドセールスに取り組む方にも、すでに取り組んでいる方にも、多くの学びがあるカンファレンスだと思いますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。(本イベントは終了しました)
ーQ. インサイドセールスのどういったところを画期的だと感じたのでしょうか。
茂野:特に若手のキャリアにとって非常にいいポジションだと考えています。例えば人材業界からITへ、のように業界をまたいで転職するのは難しいことだと思うのですが、インサイドセールスという機能がその会社にあれば、業界の経験がない方でも受け入れることができる。企業側にとってもリスクが低く、お互いにとっていい機能だと思います。
ーQ. インサイドセールスがその機能を担えるのはなぜでしょう。
茂野:それは教育サイクルが短いからです。訪問営業をする営業担当者が1日1回訪問している一方で、インサイドセールスは1日20回お客様と電話しているということが容易に起こり得ます。それだけ多くの場数を踏むことができるため、教育期間が短く、成長速度が速い。企業側にとってみれば人材に投資をしてから、活躍してもらえるまでが早いため、インサイドセールスという機能を持つことで様々なバックグラウンドを持つ人材を受け入れることができるのだと思います。
インサイドセールスの始め方。組織・ツールの導入方法を徹底解説
最初におさえるべき3つのオペレーションルール
確度の高いリードは5分以内に対応
ーQ. そんなインサイドセールスに取り組む企業もどんどん増えてきていますが、ただ仕組みを取り入れようとしても中々上手くいきません。そういった方々に、まずは基本としておさえるべきオペレーションルールについて教えてください。
茂野:はい。まず確度の高いリードは5分以内にコールしましょう。これは5分以内にコールするとお客様につながる確率が圧倒的に違うとアメリカのInsidesales.comが調査結果をまとめています。お客様につながる確率が高くなれば、当然商談機会の獲得率も高くなりますよね。さらに、お客様は自社だけではなく競合他社にも同様に問い合わせをされているケースがよくあります。競合よりも先にお客様と接触しておくというのも重要な観点です。
ーQ. つながりやすいというのはよく聞きますが、「競合より先に」というのもあったのですね。
茂野:わかりやすい例は引っ越し業界です。引っ越し時に一括見積もりサイト等から依頼したことがある方ならわかると思います。見積もり依頼をするとかなりの数の業社から電話がかかってきますよね。しかし大抵の人は、同じことを3回4回話したら、もう面倒に感じてしまうと思うんです。やはり先にアプローチしないとそもそも提案機会さえもらえないということも起こり得ます。
ーQ. しかし、例えばWeb上のCVが資料ダウンロードの時って、5分以内にかけると「資料まだ見てません」と断られることもありませんか?
茂野:それは資料をお渡しする順番を間違えている可能性があります。そもそも資料ダウンロードの段階で、お客様のニーズをすべて把握するのは難しいですよね。まずはお電話をして、お客様が料金を知りたいとおっしゃったら「料金表」をお渡しし、事例が知りたいとおっしゃったら「事例集」をお渡しすればよいのです。例えば弊社でも、ビズリーチサービスの資料請求が来たとしても、じっくりお話をお聞きするとHRMOSの方がお客様のニーズに適したサービスだったということもあります。サービス資料をただ自動送信するだけでは、このようにミスマッチが起こり得るのです。
1リード5~6アクション
茂野:次に、やはり1つのリードに対して5~6回はアクションすべきです。それも、電話だけではなく、必ずメールと組み合わせてアクションをとりましょう。意外とメールをしっかり送っているインサイドセールスって少ないんですが、お客様がお忙しい方の場合、電話でピンポイントにお話するのは難しいですよね。メールならいつか読んでいただけるかもしれませんし、MAを活用すれば、メールを開封していただけたかどうかもわかります。
上記2つを担保できるリード上限を見極める
茂野:そして、この2つのルールがあると、インサイドセールスが対応できるリードの数に上限が発生します。それは各社によって違うと思いますが、その数をしっかり見極めることが重要です。
ーQ. 5分以内・5~6アクション、というのができないのであればリードをむやみにとるべきではないということですか?
茂野:はい、そうしないとマーケティングのROIが下がります。5~6アクション取ろうと言っていても、たくさんのリードが発生すると、新しいリードばかりを対応してしまい、過去のリードに何回もアクションしなくなってしまうのです。そして、次の新しいリードを待つようになります。しかし、フォームから得られる情報だけではどれだけ確度の高いリードなのかは判断しきれないところがあると思うんです。例えば、今は規模が小さな企業様でも直近に大きな資金調達を控えているかもしれないし、社長がCEOと書くのが恥ずかしくて、役職を書いていないだけかもしれない。知名度は高くない代理店だけど大手企業様と取り引きがあるかもしれない。そういうチャンスを逃さないためにも、リード数のコントロールは必要です。
ーQ. そうするとWeb上から手に入る情報ではあまり優先度付けはされないのですか?
茂野:そうですね。なぜかというとマーケ活動だけでは獲得しきれない情報を補うのもインサイドセールスの役割だと考えているからです。ただ、優先度付けは行うべきなので、資料請求・デモ依頼・お問い合わせなどリードソース別に優先度付けをしています。
茂野:あとは、これらをデータドリブンで仮説検証し続けるのが重要で、インサイドセールスはさっきもお伝えしたようにお客様との接触頻度が多いことが特徴なので、KPIやオペレーションなど、何からなにまで全てを前提から疑って試行錯誤していくことが重要です。
KPIはフェーズに応じて最適解が変わる
ーQ. 今KPIという言葉が出ましたが、最近インサイドセールスでも商談機会獲得の数や率だけでなく、その後の受注金額等を追う企業も増えていますよね。インサイドセールスのKPIについてはどういう形が最適だと思いますか?
茂野:最適解はフェーズに応じて変わります。そもそもインサイドセールスが持つべきKPIは大きく3つに分類されます。
茂野:まず1つが行動指標。これは電話をした数やメールを送った数です。しかもこれは単純な回数だけではまだ不十分で、何社に対応しているのか、というのを見る必要があります。2社に100回ずつ電話するのと100社に2回ずつ電話するのでは、合計アクション数(面積)は一緒ですが、前者は最大2件しか商談機会を獲得できません。何社にアクションしているかをきちんと追う必要があります。
茂野:2つ目は経過指標です。これは商談機会の数や見込みとして挙がった商談の数ですね。
茂野:最後の3つ目が結果指標で、これがどれだけ受注につながったか、という受注数や受注金額です。
茂野:この3つがあるのですが、そのうちどれを追うべきかは先程もお伝えしたとおり事業フェーズに応じて変わります。例えば立ち上げ時は、結果を追う必要はありません。まずは多くの商談機会を獲得しないと、そもそも良い商談機会を獲得できているかどうかを評価することができないですよね。良いかどうかがわからないとPDCAを回せません。ある程度商談機会を獲得できることがわかってきたら、次に見込み商談数をKPIにしてみます。確度の低い商談機会ばかりでは、営業の生産性が落ちるからです。その後どういう商談が受注に至るかまでの勝ち筋が見えてきたらさらに受注まで追うことにする。そのように、フェーズに合わせてKPIをどんどん奥の指標に変えていくと良いですね。最後は受注だけ追っていても十分成果を出せます。
ーQ. 受注などの奥の指標だけ見ていると、目先の達成感がなくてモチベーションにならなかったり、みたいなことはありませんか?
茂野:モチベーションという意味だと、継続的に商談機会を獲得できればリードタイムがあっても、常に一定期間前の商談機会から受注が発生し続けるはずなので、問題ないとは思います。ただ、インサイドセールスを外部ベンダーやアウトソースに頼るのもいいとは思うのですが、長い目で成果を追うという意味では正社員の体制のほうがいいとは思います。
お客様に信頼されるインサイドセールスになるための3つのコツ
自社プロダクトを徹底的に理解する
ーQ. ここまで、仕組み的な部分でインサイドセールスの成果を上げるポイントをお伺いしましたが、次に業務の要となる実際のトークについてコツを聞いてください。
茂野:まず自社プロダクトをきちんと理解しましょう。意外と自社製品のことをわかっていない人が多いんです。例えばあなたの会社の製品の特長を3つ挙げてください。では他のツールとの差別化要素、アドバンテージは何ですか?どういうポジションなんですか?誰にどんなメリットがあるんですか?具体的にどんな効果が出るんですか?これを相対する人に合わせてきっちり答えることができることが大前提です。自分が製品のことをあまり理解していないのに、お客様にそれを提案しようなんておこがましいことですよね。
茂野:製品の特長を3つ挙げてくださいと、同じ会社の社員100人に聞いて100人とも答えが一致することってまずないと思います。それくらい、社内でも明確になっていないものなんです。それをポジションやシチュエーション毎に理解し、適切に説明できるようになっておきましょう。
お客様のことを知れ
茂野:次に、お客様のことをよく知りましょう。当たり前のことですが、できていない人が多いです。
茂野:お客様は自分たちのことを知らない人は信頼してくれません。自分がお客様の立場になった時のことを考えてみてください。例えばベルフェイスさんにオフィスの提案の電話をかけてきた営業担当者がいたとしますよね。「御社に最適なオフィスのご提案でお電話差し上げました。ところで、御社ってどういう事業をやってらっしゃるんですか?」こんなことを言われた時点でもう電話を切りたいと思いませんか?事業を知りもしないで何が「御社に最適」なんだと思いますよね。
茂野:会社のことだけでなく、実際に電話をかける相手の方の役割もそうです。「商談機会取れませんでした…」と言っているメンバーが第三営業部の部長に電話をかけていたんですが、「第三営業部って何するところ?」って聞いても「わかりません」って答えるんですね。顧客の役割を理解せずに、課題の特定はできません。こういうことがしっかりできているかというのが成果に跳ね返ってきます。
ーQ. お客様のことを知るのが重要だというのはわかるのですが、事前に調べるのにはやはり時間がかかりませんか?
茂野:時間をかけすぎてコールの時間がなくなるのはあるかもしれませんね。そういう時、確度の高いリードに関してはお客様側のニーズが強いのですぐかけた方がいいケースもあります。あとは熟練していけば詳しくなっていくというのはあるので、最初のうちは仕方ないと見るのも必要かもしれません。例えばベルフェイスさんに詳しくなればその競合には全部対応できるようになっていきますよね。CRMベンダーを1つ調べれば、他の企業にも対応できるようになっていきます。僕もインサイドセールスをやるようになってからおかげであらゆる業界に詳しくなりましたし、これもインサイドセールスのスペシャリティの1つですね。
茂野:ちなみに、お客様のことを知るってどうやるの?と聞かれることもあるんですが、これは「その会社に入社しよう」と思うことだと説明しています。入社しようと思ったら、どういう会社なのか、事業は何か、業績はどうか、どんな人がいるのか、など色々気になりますよね。1社1社に対してその気持ちで調べていくとお客様に詳しくなれます。
ワーストケースを想定する
茂野:3つ目はワーストケースを想定しましょう、ということです。多くの人がベストケースのみを想像しがちです。お客様にニーズがあって商談機会をいただける、これがベストケースですが、最も確度の高いリードソースでも良くて半分、ホワイトペーパーのようなリードソースだと10%くらいしかそうはなりません。「今は必要ないので」と言われた時に、「そうですか、わかりました。ではまた時期を改めますね。」とそれだけ言って、そのまま対応せず終わっていることはありませんか?もったいないですよね。
茂野:失敗に終わるケースにはフェーズがあります。例えば「自社のことを理解してもらえていない」→「製品のことを理解してもらえていない」→「メリットを理解してもらえていない」→「競合との違いを理解してもらえていない」のように。フェーズを設けたらあとはそれに対応していけばいいんです。お客様の状況に合わせて「私たちはこういうコンテンツ持っているので、それもお送りしますね。それを読んでいただいた頃にまたお電話差し上げますので」と言えば、次のアクションが明確になり、顧客とのコミュニケーションが続いていきますよね。
茂野:温度感が高いかどうかではなく、そのお客様が本来のターゲットかどうかが重要で、ターゲットであれば、温度感が低くても商談機会は獲得したいですし、逆に非ターゲットなのであれば温度感が高くても獲得すべきではありません。しかしインサイドセールスは目標が商談機会の獲得数だったり、たくさん断られるとストレスフルになったりもするので、温度感が高いところにばかり対応したくなるのは気持ちは理解できるのですが、それはあまり本質的ではありません。電話の切り方をしっかり次につながるように変えていくために、常にワーストケースを想像して、それへの対応策を練りましょう。
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まとめ
いかがだったでしょうか。5分以内にコールする、その会社に入社するつもりで事前準備をする、など明日から活かせるポイントがいくつもありました。ぜひ本記事の内容を参考に、インサイドセールスのオペレーションやコミュニケーションを改善してみてください。そして、茂野さんも途中おっしゃっていたように、「全て前提から疑って試行錯誤」してみてください。