2020年はオンライン営業が加速し、一部の企業の間ではインサイドセールスという仕事の存在感が増しました。
即戦力人材と企業をつなぐ転職サイトや人財活用プラットフォームなどを展開するビズリーチで、「HRMOS(ハーモス)」事業部 インサイドセールス部 部長を担う茂野明彦氏は、「不確実性の高いこれからの時代、インサイドセールスはプロダクトや会社、お客様の状況に応じて柔軟に変化するアジリティ(機敏性)の高い組織であるべきだ」と解きます。
2020年12月に初の著書『インサイドセールス –訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド–』を上梓した茂野氏に、2021年のインサイドセールスの行方についてお話を伺いました。
株式会社ビズリーチ HRMOS事業部 インサイドセールス部 部長 兼
BizReach 創業者ファンド パートナー
茂野 明彦氏
2012年セールスフォース・ドットコムに入社。グローバルで初のインサイドセールス(IS)専属の企画トレーニング(イネーブルメント)部門を立ち上げると同時に、アジア太平洋地域全体のトレーニング体制の構築支援を実施。2016年、株式会社ビズリーチに入社。インサイドセールス部門の立ち上げやビジネスマーケティグ部部長を経て現職。2020年12月、スタートアップ企業に対して、創業期の経営チーム組成・採用・経営戦略面の支援を行なう「BizReach 創業者ファンド」パートナーに就任。同月『インサイドセールス–訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド-』(翔泳社)を上梓。
主体的に情報収集する顧客が増えるも、検討は長期化
――2020年を振り返って、コロナ禍でインサイドセールスのあり方はどのように変わったと感じていらっしゃいますか。
茂野氏(以下敬称略):テレワークが増えたり、オンライン営業に慣れたお客様が増えたりとお客様には大きな変化が訪れましたが、インサイドセールス自体はそれほど大きく変わっていないように感じています。
例えば当社のインサイドセールスの場合、もともとCRMツールやSFA、あるいはベルフェイスといったCTIを活用していたため、緊急事態宣言が発令されても、自宅にパソコンとヘッドセットを持ち帰れば、すぐに同じ環境で仕事をはじめることができました。
大きく変わったのは、ITツールの存在感です。ベルフェイスや当社の手掛ける採用管理クラウド「HRMOS(ハーモス)採用」も含めて、これまで「あればよい」ものだったITツールが、コロナ禍のリモートワークを円滑に進めるために「必要不可欠」なものへと変化しました。
――お客様の行動には、どのような変化を感じていますか。
茂野:情報収集の方法が変わったと感じています。それまでは営業が訪問したときや、リアルの展示会・セミナーに参加したときに情報収集していたお客様にとって、オフラインで情報を仕入れる機会が減少してしまいました。
Hubspotの調査によれば、コロナ禍でインターネットによる検索やチャットでの問い合わせが増え、ウェブサイトのトラフィックが急増したそうです。リアル展示会ができなくなり、ウェビナーも増えたように思います。
――こうした情勢の変化に伴い、インサイドセールスの手法に変化はありましたか。
茂野:例えば当社の場合、サービスに関する資料やイベントレポートなど、製品の周辺にある「コンテンツ」にご興味のあるお客様が増えました。それから、お問い合わせやイベントレポートなどのダウンロード時に入力していただく電話番号に、携帯電話の番号を記入される方が多くなりました。
しかし、多くのお客様は知らない番号からの着信は取りづらいのが当たり前です。。そのため、携帯電話の番号をご入力いただいたとしても、お電話が繋がらないケースが増えました。
そこで私たちは、お客様に安心していただくために携帯電話にご連絡する前にSMSへ一報させて頂くことがあります。SMSに「ビズリーチの茂野と申します。資料請求についてお問い合わせいただいた件について、お電話させていただきます」とお伝えしてから架電することで、通話できることが格段に増えたように感じています。
通常のEメールに比べて、SMSは開封率が高いようで、通話ができなくても折り返しのお電話をいただくケースもあります。
――コロナ前と比べて、どのようにKPIを変えましたか。
茂野:業種・業態によって景気の動向が異なりますが、お客様の検討にかかる時間が長期化する傾向にあります。こうした長期検討のお客様としっかり関係構築できるようにKPIを再設定すべきだと思います。
例えば、長期検討のお客様が増えたいま、これまでと同じように商談数や商談化率をKPIにしていると「いまは必要ないです」と言われて、そこで関係性が終わってしまいます。それは正しいコミュニケーションのあり方ではないでしょう。
そもそも、お客様との関係性は長期にわたるものと捉える必要があり、インサイドセールスでは「商談機会をいただけた・いただけなかった」という短期的な成果だけを追うことは私はしていません。KPIの設定の仕方やネクストアクションの設計方法など、ディスカッションしながらお客様と関係構築できる仕組みを検討すべきだと思います。
インサイドセールスのシナリオ設計は月1回の会議で見直し
――刻々と変化する社会情勢の中、どれぐらいのスパンでインサイドセールスのシナリオ設計を見直していますか。
茂野:月に1回、現場からの起案をもとにシナリオ設計を見直す会議を設けています。その会議の中で、行うべきアクションと、やめるべきアクションをディスカッションし、できるだけその場で決裁しています。SMSを活用したシナリオ設計も、メンバーからのアイデアから生まれたものでした。
――メンバー発のアイデアが生まれやすくなるために、どのようなことに気をつけていますか。
茂野:ボトムアップでアイデアを出す機会を継続的に設けることです。それから、ネガティブな報告を受けたときにすぐ「ありがとう」と言える組織づくりを目指しています。
私は、一人ひとりのお客様と日々接しているメンバーの意見を大切にしています。お客様やマーケター、フィールドセールスの視点で考えられていることなら、すぐ承認したいと思います。やってみてうまくいかなければやめればいい。
それからインサイドセールスをしていると、目標数字まで少しだけ数字が足りないや、お客様からお叱りを受けてしまった、ということがありますよね。そのようなネガティブな報告受けたときに、すぐに「ありがとう」と言うようにしています。
メンバーが安心してネガティブな報告ができる環境をつくることも、インサイドセールスの組織づくりに重要なポイントです。インサイドセールスの向こう側にはマーケターがいてフィールドセールスがいて、そしてお客様がいるということを決して忘れてはならないと思います。
コミュニティを組織し、新たなリードを生むサイクルをつくる
――新型コロナウイルスの感染拡大状況もまだ先行きが見えない状況ですが、2021年のインサイドセールスはどのように変わっていくと見ていますか。
茂野:そもそも私はインサイドセールス組織の完成形は、変化に耐えうるアジリティ(俊敏性)の高いチームだと考えています。インサイドセールスは、セールス組織における「ミッドフィルダー」。前線に上がって攻めに転じるときもあれば、守るときもあるし、ボールキープをすべきときもある。プロダクトや会社、お客様の変化に応じて、最も身動きの取りやすい組織なのです。市場と事業を見続け、常に何がベストなのかを問い続けていくことが必要だと思っています。
今後の流れで言えば、SDRと呼ばれるインバウンドチームはこれからなくなっていくかも知れないと考えています。インバウンドマーケティングが主流になれば、製品を検討するために必要な情報はひと通りお客様の手元にそろってしまいます。
そして購入を決める際も、飲食店や日用品のようなBtoC商材のようにBtoBプロダクトも口コミサイトを見て決断するようになる。このとき、お客様はご自身の意向と判断で、主体的に各社の営業とコンタクトを取り製品を購入するようになるはずです。
今後盛り上がってくるのは、Gaininsight社が提唱しているようなCSQL(カスタマーサクセスクオリファイドリード)でしょう。
いかに既存のお客様からリードを紹介いただき、コミュニティマーケティングを展開して、コミュニティの中から新しいリードを創出していくか。SDR(sales development representative)はCDR(community development representative)としての役割へとシフトしていくでしょう。
一方、アウトバウンドを担うBDRは引き続き必要とされるはずです。このとき、いかに価値あるコミュニケーションを設計して「インバウンドマーケティングのようなアウトバウンドマーケティング」をつくっていくか。
例えばCXOレターのようなプレミアムなコンテンツをつくったり、特定の業種・企業専用のマーケティングを展開したりして、そこからLTVを最大化するような動きができると効果的です。
そしてオンラインならではの価値を創出していくことも鍵となるでしょう。例えばお客様に「15分だけウェブ会議をしませんか」とクイックに疑問を解決する場を設けたり、オンライン営業の録画データを育成に生かしたりするなど、これまでの営業体制をより良くするためにオンライン営業を活用できれば、セールスチームはよりパワーアップするのではないでしょうか。
――2020年12月に書籍『インサイドセールス』を上梓されました。最も反響が大きかったのは、どの部分ですか。
茂野:採用に関して書いた「第4章 インサイドセールスの採用」の部分です。過去に私が書いたnoteでもアクセス数が多く、ウェビナーや勉強会を開催すると必ず聞かれることが採用でした。
昨今、インサイドセールスは急激に求人数が増えているものの、認知も経験者も少ない状況です。各社、自社に合うインサイドセールスのメンバーを採用するにはどうすればいいのか、手探り状態だと思います。
それから、インサイドセールスを置くことと「THE MODEL」の営業体制を敷くことはイコールではありません。「THE MODEL」の体制は、SaaSでいうホリゾンタル(あらゆる企業に導入できる)でSMB領域のプロダクトに有効であると考えています
「THE MODEL」はマーケターが獲得したリードをインサイドセールス、フィールドセールスとファネル型で絞り込んでいく仕組みになっているので、そもそも対象企業数が少ないエンタープライズ領域の企業がターゲットの場合、アプローチする会社が少なくなってしまいます。
バーティカルな(業種・業態を限定する)SMB領域や、エンタープライズ領域へアプローチをしなければならないプロダクトの場合等は特に自社のプロダクトがどのような性質を持つプロダクトなのか見極める必要があるでしょう。
――2021年の展望は。
茂野:子育てや介護などをしている方々や、テレワークをしている方々など、全ての働く方が活躍できる環境づくりを、私たちが運営する人財活用プラットフォーム「HRMOS」シリーズでサポートしていけたらと思っています。
これから先、2065年までに日本の労働人口は4割減ると言われています。そのとき、インサイドセールスという仕事が、働くという選択肢を選べる人が増え、労働人口の増加へ貢献できればいいなと思っています。人財活用プラットフォーム「HRMOS」シリーズとインサイドセールスの力で、すべての働く人が活躍できる社会を実現したいですね。