フィールドセールスを経て、ビズリーチでインサイドセールスのトレーナーを務め、2019年にスマートドライブにジョインしインサイドセールスの立ち上げに携わった今野(こんの)雄貴氏。今野氏は1年半ほど前、noteで「日程打診のやり方次第で、獲得アポイント数は1.2倍になる」という内容を発信していました。
その真意は何だったのか。そして、コロナ禍で進行するオンライン時代における「日程打診」のやり方は変わったのか。インサイドセールスの領域で様々なノウハウを確立してきた今野氏に、これまでのキャリアとオンライン時代のインサイドセールスのあり方について伺いました。
株式会社スマートドライブ インサイドセールス 部長 今野 雄貴氏
1990年生まれ。大学卒業後、ブライダル施設のコンサルティングを手掛ける会社へ入社し、フィールドセールスを経験。2017年2月ビズリーチに入社し、2年半にわたりインサイドセールスチームのトレーナーを務める。2019年9月スマートドライブに入社し、現職。インサイドセールスチームの立ち上げと体制構築に携わる。
効果的な「日程打診」を行う3回のタイミング
――以前、noteで「うまく日程打診を行えば、アポイント数が1.2倍になる」という記事をまとめていらっしゃいました。その真意は?
今野:そもそもインサイドセールスの業務フローを大きく分類すると、「架電前、架電中、架電後」の3段階があります。その中で「日程打診」は、架電中の最後のプロセスで出てくるものです。ここでスムーズに日程調整が行えないと、お客様に悪印象のまま電話を終えることになってしまいます。
インサイドセールスになりたての頃は、アポイントを取ろうと焦るあまりお客さまの温度感を見極めないまま日程を打診してしまったり、コミュニケーションが雑になってしまったりすることがありますよね。
とくに自分のスケジュールではなく、担当営業とお客さまのスケジュールをすり合わせるのはなかなか難しいことです。コロナ前は営業の移動時間まで見積もってスケジュールを組まなければならず、苦労した方も多いはず。
当社のインターン生も、お客さまから「メールするからいいよ」「無理して来てくれなくていいよ」と言われ、アポイントが流れてしまうことがあるとよく聞いていました。
アポイントの獲得率を高め、お客さまへより良い印象を残すために日程打診のスキルを上げることは非常に重要なことです。
――あらためて今野さんは、どのように日程打診を行っているんですか?
今野:最も大事なのは、アポイント日を最短の日に設定することです。オンライン商談なら、架電した当日か翌日、訪問営業なら2営業日以内に設定したいところです。
アポイントの獲得日から商談日までの期間が短ければ短いほど、有効商談になりやすいというデータもあります。商談日が1~2週間先になってしまうと、お客さまの興味・関心や温度感は下がってしまいますし、類似サービスを検索する可能性も高まります。ですから、「獲得日 to 商談日」は最短で設定するのがいいのです。
――日程打診にはタイミングが3回あるとnoteで書いていらっしゃいました。具体的に、どういうときに、どのようにアポイントを獲ればいいのでしょうか。
今野:まず1回目は、電話を架けたときの導入部分です。最初の段階で、
「本日お電話をさせて頂いたのは、●●の件で今週の●曜日か●曜日あたりに別途1時間ほどお時間を頂ければと思い、お電話致しました」
と目的とアポイントの欲しい日にちを打診してしまいます。この段階で稀に「いいですよ!」と気持ちよくお返事いただけるケースがあるので、そういうお客さまはその場でアポイントを獲ってしまいます。これは本格的な日程打診というより、軽い前振りくらいのトーンで大丈夫です。
会話の導入部分でアポイントの獲れるお客さまは「課題が顕在化されていて、その解決策が分かっている」方です。温度感が高いうちに商談をしましょう。
次のタイミングは会話の中でお客さまの温度感が上がりきったタイミングです。温度感が高まってくると、お客さまの相づちの量が増え、トーンが上がります。また、インサイドセールスへの質問も増え、核心をついた質問をいただけます。こうしたサインが増えてきたときは、温度感が高まった証拠です。
ここでアポイントの獲れるお客さまは、「課題は顕在化しているが、その課題を解決する方法が分かっていない」パターンです。自社の商品やよくある課題についてお話する中で、温度感が高まってくるのです。この段階ではまだ「NO」と言われてもかまいません。
3回目の「日程打診」は、お客さまの懸念点を払拭した後、会話の最終段階です。この段階でお客さまの温度感が上がりきっていないということは、不信・不要(費用対効果を感じていない)・不適・不急のいずれかがあるということです。この「4つの不」を追加ヒアリングで丁寧に払拭してから日程を打診します。
いずれのタイミングで日程打診するときも、お客さまの立場やオフィスの立地、時間帯などを気づかうひと言を添えること、それから「ダブルバインド」を使うことが重要です。
「火曜日と木曜日ならどちらがいいですか?」「午前と午後、どちらがご都合がいいですか?」とアポイントを前提とした2つの選択肢の中から選んでもらうこと。そうすると、お客さまは日程を選びやすくなり、アポイントも獲りやすくなります。
危機感が高まり、トークに耳を傾けてもらいやすく
――いますぐトークに活用できるノウハウがぎっしりです。ここまで「日程打診」のあり方を伺ってきましたが、コロナ禍でより一層、アポイントが獲りにくくなっているように思います。2020年、「日程打診」はどのように変わりましたか。
今野:インサイドセールスの話に耳を傾けてくださる企業が増えました。社会情勢が大きく変わり、何か新しいことをしなければ、情報収集をしなければという危機感を持つお客さまが増えました。
オンライン会議へのハードルも大幅に下がりました。コロナ前は「会議室が開いてないからその日はダメ」と断れることがよくありました。しかもベルフェイスのようなオンライン営業ツールを使おうとすると「そのアプリ、うちのパソコンで使える?」「あ、うちの会社はこのオンライン会議ツールじゃなきゃダメなんです」と言われることもよくありました。
いまでは、お客さまもすっかりオンライン会議に慣れてきたと感じます。「ああ、ベルフェイスね、いつにする?」とか「御社は何のツール使ってるの?」とお客さまから言ってくださるケースも増えましたね。これまでと比べて日程打診しやすくなったように感じています。
――コロナ禍でお客さまがオフィスに出社しているのか、在宅勤務なのかわからないというインサイドセールスの方悩みをよく聞きます。今野さんはどのように判断しているんですか。
今野:オフィス出社か在宅勤務かについては、業種・業態、部署によって見極め方が異なります。私たちスマートドライブのお客さまの多くは、自動車を業務に利用している企業です。その中でも、例えば雨漏り修理を行う会社は、出勤してお客さまのもとに出向かなければ仕事になりません。とくに10~11月は台風シーズンで繁忙期にあたり、確実に出社しています。
一方、マーケティング部門やIT部門は出社しなくても業務ができます。その場合、ほぼ在宅で仕事をしていると考えていいでしょう。
大手企業の場合はインフォメーションやプレスリリースで出社状況や企業の方針を発表しているケースが多いですし、スタートアップの場合はクラウドサービスなどを導入して場所や時間を選ばない働き方をしているケースが多いですね。業界ごとのビジネスプロセスを把握し、繁忙期をリサーチして把握することで、オフィス出勤なのか在宅勤務なのかについても見極められるようになりました。
――在宅勤務のお客さまと直接お話できる携帯電話の番号を知るために工夫していることはありますか?
今野:確かにお問い合わせをいただいたときに、固定電話の番号をご記入いただいた場合、架電時に担当者の携帯電話の番号を伺おうとしても8割近くは教えていただけません。そこでいくつかの工夫で、直接お話できる番号をお教えいただいています。
お問い合わせ入力フォームの電話番号欄に「在宅勤務の方は携帯番号を記入」と注意書きをして、携帯電話番号の入力を促すようにしています。記入サンプルをあえて「090」とし、携帯電話の番号を入力しやすくする工夫もしています。メールで問い合わせをいただいた際、署名欄に書いてある携帯電話の番号もチェックするようになりました。
当社ではお客さまの携帯電話の番号を取得することを重要な指標の一つとしています。
オンライン営業で複数人商談をかなえるワザとは
――いま、営業活動の成果を出すため何を大切にすればいいですか?
今野:基本的なことを愚直に、忠実にやることだと思います。ほんの少しの工夫で、オンライン時代でも劇的に成果を高めることは可能です。
例えば私たちのチームの場合、インサイドセールスがフィールドセールスにトスアップする前に、これまでの1.5倍ほどの量をヒアリングするようになりました。
もともと私たちのインサイドセールスは、アポイント当日までお客さまに3回ヒアリングするようにしていました。それをさらに進化させ、いまではフィールドセールスが初回のアポイントで聞く内容まで、インサイドセールスがヒアリングし、初回からお客さまがより必要とする情報やデータを提示できるようにしています。
それから、初回訪問時にご同席いただける人数を増やすことも心がけています。当社のサービスの場合、1つのソリューションで、営業部門や人事・労務部門、総務部門、マーケティング部門などにご活用いただけます。
そのためにオンライン会議のURLをお送りする際「この会議には何人でもご参加いただけます、ご興味のある方や他部門の方もぜひご参加ください」とひと言添えるようになりました。また、自社のサービスがどの部門でどのように活用できるのか解説したスライドを1枚添付するだけでも違います。このひと手間で、初回の商談に参加してくださる人数が大きく上がりました。
当社のフィールドセールスは、いまではお客さま専用のウェビナーを行うような感覚でオンライン商談を行っています。当社では複数名商談の数をモニタリングしているのですが、初回の商談に3人以上ご同席いただくと受注への確度が一気に高まりますね。
受注までに3人くらいのご担当者に会っていたこれまでの営業プロセスを、オンラインで一度に済ませてしまうような感覚です。こうした方法を取り入れた結果、受注・失注が判明するまでのリードタイムが大幅に短縮されました。
セールス活動の肝は顧客解像度を上げること
――今野さんの最初のキャリアはフィールドセールスだったそうですね。フィールドセールス時代に経験した印象的なできごとについてお聞かせいただけますか。
今野:これまでの仕事でもっとも印象に残っているのは、ブライダル施設向けコンサルティング会社にいた社会人2~3年目、神戸で営業をしていたときのことです。その頃僕は担当しているホテルのバンケット(週末に結婚式を行うスペース)を、平日に企業のパーティや発表会などにご利用いただくための営業をしていました。
神戸は医療産業都市なので病院や製薬メーカーのお客さまが多いのが特徴です。しかし当時の僕は医療・製薬業界の知識がまったくなかったため、眼科、腎臓内科、整形外科など病院の診療科について調べ抜き、いまどのような薬や論文、教授がトレンドなのかを徹底的にリサーチして営業へ行くようになりました。この頃、顧客理解を深めてセールス活動をすることで、様々な情報を組み合わせて立体的な提案ができるということを知りました。
――当時受けたアドバイスで、いまも大切にしていることはありますか?
今野:「なぜを5回繰り返せ」、それから「ものごとをポジティブとネガティブの両面から見るべし」ということです。
1社目のブライダル施設向けコンサルティング会社にいたとき、どうしても失注してしまうことがあって、その頃一緒に仕事をしていた元外資系戦略コンサルティングファーム出身の役員から、失注にいたるリスクを考えるようよく指摘を受けていたんです。
リスクがあるなら徹底的に洗い出し、それを一つひとつクリアにすることが受注への近道だといまでも肝に銘じています。
――これからの時代、常に変化にさらされる20~30代の営業パーソンは、どのようなマインドで日々のセールス活動を行っていけばいいでしょうか。
今野:たしかに営業活動が難しくなったと感じる方は多くなったでしょう。伝えたいことがお客さまに伝わりきらなかったり、予算削減のため失注するケースも増えているかもしれません。
こういう言い方は適切ではないかもしれませんが、その一方でステイホームのメリットもあると感じています。移動の時間がなくなったためインプットの時間が増えた人も多いでしょう。毎日1~2時間読書ができるようになったり、ランチタイムにウェビナーに参加できるようになったりした人もいるのではないでしょうか。
僕の場合は、スマートドライブのCRO、弘中(丈巳氏)から定期的におすすめの本を教えてもらうようにしています。自分と考え方や人生経験の異なる人から本をおすすめしてもらうことで、視野が広がるように感じます。
最近では『キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論』(ジェフリー・ムーア、翔泳社)という本をおすすめしてもらい、新しい視点を得ることができました。
せっかく出勤や訪問にかかる移動時間がなくなったのですから、その時間を何に使うのかでこれからの成長やキャリアが左右されると思います。
これからも日々刻々と状況が変わる中、ネガティブな状況に陥ることがあるかもしれません。2020年春の緊急事態宣言で、頭を抱えたインサイドセールスの方も多かったのではないでしょうか。
しかし困ったことが起きてもひとりで閉じこもらず、フィールドセールスと徹底的にきめ細かくコミュニケーションをすること。彼らの困りごとを聞き出し、それを解決する方法を考えることで、インサイドセールスの道は開けると思います。
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