日々新しい考え方や手法、ツールなどが登場し、変化の著しいBtoBマーケティング業界。その中で、大手企業から中小企業まで広くマーケティング支援を行う株式会社才流(サイル)の代表を務める栗原康太氏は、2019年から自身のnoteで毎年業界予想を発信しています。
本記事では、新しい年の始まりに、ご自身のnoteとは違った角度からBtoBマーケティング業界の2020年の振り返りと2021年の予想をしていただきました。
株式会社才流 代表取締役 栗原康太氏
1988年生まれ、東京大学文学部行動文化学科社会心理学専修課程卒業。2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年「才能を流通させる」をミッションに掲げ、経営者・事業責任者の想いの実現を加速させる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。Twitter Facebook
コンテンツに大きく投資する会社が増える
――激変の2020年のBtoBマーケティング業界を振り返って、躍進した企業とその秘訣についてお教えいただけますか?
栗原:コロナ禍を背景に社会全体でデジタルシフトが急激に加速し、デジタル施策に予算を投下する企業が増えました。2020年に上場したヤプリ、プレイド、Kaizen Platformが代表例ですが、本メディアを運営しているベルフェイス社のようなデジタル×マーケティング、デジタル×セールスの領域で事業を展開する会社が軒並み業績を伸ばしたのも、デジタル施策への投資増加が背景にあるでしょう。
顧客の情報行動・購買行動も大きく変わりました。ウェビナーへ参加する行動も一般的になり、Zoomやベルフェイスなどのツールでオンライン商談を受け、対面することなく発注する行動も当たり前になりつつあります。
そうした変化を受け、これまで紙のカタログや製品の実物を使って既存顧客に営業し、展示会で新規見込み客を集客してきたような老舗の大手企業も、ウェビナーやSNS広告、検索広告などデジタルマーケティング施策を通じて新規見込み客を集客するようになりました。MAツールやSFAツールを導入した企業の話も昨年は多く聞きました。
こうした動きに業種の偏りはなく、人材から通信、金融、製造業まで幅広い企業様から当社にお問い合わせをいただいています。皆さんが共通して口にするのは、「社内の平均年齢が高く、デジタル施策に関するノウハウ・知見を持った人材がいない」こと。
そこで外部に知見やリソースを求めて、当社のようなデジタルマーケティングを支援する企業に相談をされているようです。
――栗原さんは、2020年頭のnoteで「BtoBマーケティング業界の2020年予想」を公開しています。その中で、「映像・音声コンテンツの普及」や「組織体制は分業から統合・越境へ」など様々な予測をされました。この予想は当たったとお考えですか、外れたとお考えですか?
栗原:まず、「①BtoBにおける映像、音声コンテンツの普及」という予測は当たったと捉えています。ビジネス系YouTube動画、Voicy、stand.fmの音声コンテンツが急速に広がりました。
在宅勤務の際、イヤフォンで音声コンテンツを聞きながら仕事をする方も多いのではないでしょうか。ウェビナーで「ながら見」「ながら聞き」をして、気軽に情報収集する方も増えたと感じています。
「②組織体制は、分業から統合・越境へ」については、「THE MODEL」による分業化が進んだ2019年から、その揺り戻しとして部署や業務の統合が2020年に進むと考えていました。
しかし、コロナ禍によって新しく「THE MODEL」型の分業組織を取り入れる企業もありましたし、既に分業組織を導入していた企業は、自社に最適な形を求め、目まぐるしく統合・分業を繰り返していたりするので、予測は当たらなかったと捉えています。
組織に関連していうと、顧客の情報行動・購買行動がデジタルシフトしているのは間違いないので、今後はコンテンツの重要性が高まっていくはずです。編集・ライティング経験者を採用して、コンテンツ作成を内製化する企業は2021年以降、増えていくのではないでしょうか。
例えば、3名のライターを採用して月5本ずつ記事を制作すれば、1年後には180本の記事コンテンツが「資産」として蓄積されます。作成した記事コンテンツは2年、3年と時間が経っても効力を発揮します。ライターや編集者、コンテンツマーケターなどの職種がマーケティング組織の中で増えていくでしょう。
セールスはアナログ、マーケティングはデジタルに
――2020年の動向を踏まえ、2021年はBtoBマーケティングにどのような流れが来ると思いますか?
栗原:まず大手企業がデジタルマーケティング、デジタルセールスに本格投資する1年になるでしょう。コロナ禍でデジタルシフトの必要性を感じた企業が2020年に検討・予算申請したものを、2021年は実行していく年になります。
――これまでデジタル施策に取り組んでこなかった大手企業がデジタルマーケティングやデジタルセールスに取り組むとき、何に注意すべきでしょうか?
栗原:1つは壮大過ぎるテーマを掲げないことです。DXやOne to Oneコミュニケーション、あるいは「データ基盤を整理して、最適なユーザエクスペリエンスを実現する」――こうしたテーマを掲げても難易度が高く、誰にも実現できません。
理想を掲げるのは良いことですが、デジタルマーケティングの経験・ノウハウ・人材が足りない企業がいきなり「顧客タイプに応じたコンテンツの出し分け」や「認知から意思決定までの一気通貫したユーザーシナリオの設計」を行うのは現実的ではないでしょう。
――では、まず何から始めればいいのでしょうか?
栗原:すぐにできる、シンプルなことから始めることをおすすめします。営業資料をオンライン商談向けに改定したり、過去の失注顧客を定期的にフォローする仕組みを作ったり、商談結果をSFAに蓄積する文化を定着させるなどです。
実際、トップセールスが普段、顧客に説明している営業トークを言語化し、ウェブサイト上に表現するだけで売上が上がることも多いです。シンプルなことでも、十分に成果は出ます。
――他にも、デジタルマーケティング、デジタルセールスに取り組むときに陥りがちな罠はありますか?
栗原:すべての営業・マーケティングプロセスをデジタルで完結できると勘違いしてしまうことでしょうか。
BtoB製品・サービスの場合、情報収集から理解、比較検討・契約までのプロセスがすべてデジタルで完結することは稀です。
営業から詳しい話を聞きたい方も多いですし、会社の規定上、コンペや相見積もりが必須の企業もあります。単価の高い商材であれば、顧客社内での説明用資料や稟議資料の作成をサポートするなどの営業対応はどうしても必要になります。
ある企業のマーケターの方が「セールスはアナログに、マーケティングはデジタルに」とおっしゃっていたのですが、基本的にはその方向性で営業・マーケティングのプロセスを設計した方が再現性高く成果が出ます。
顧客に愚直に向き合い、行動せよ
――マーケティングをデジタル化するときに、気をつけるべきことはなんでしょうか?
栗原:マーケティング部門が、顧客のことを知ることです。インサイドセールスもフィールドセールスも、カスタマーサポートも顧客と直接対話する部署です。
彼らは、顧客とのコミュニケーションを通じて、どのような課題・ニーズがあるのか?顧客の関心事はなにか?をよく知っています。
しかしマーケターは、職務の特性上、顧客と直接対話することが少なく、なぜ自社の製品・サービスが選ばれているのか、どんな人が自社の顧客なのかをよく知らないことがあります。
BtoBマーケティングを強化するときのボトルネックが、「マーケターの顧客理解が浅いこと」というケースも少なくありません。
顧客を知るために、BtoB企業のマーケターは営業商談や導入事例取材に同席したり、過去の問い合わせ内容やSFAの情報を閲覧したりすることをおすすめします。
それから当社がよくやるのは、自社や競合企業の導入事例インタビューを読むこと。導入事例には、顧客企業の課題や実現したいこと、製品・サービスの選定過程や理由、今後の展望までが懇切丁寧に記載されています。顧客が製品・サービスを検討し、意思決定するまでの流れがわかる貴重な情報源なのです。
自社の顧客と愚直に向き合いながら、自社に最適なデジタルマーケティング、デジタルセールスを設計していくことが重要です。
――最後に、20代、30代の若手営業やマーケターは今後、何を考え、行動すべきでしょうか?
栗原:これまで一年の予測を語っておいて言うのも何ですが、これから先の未来がどうなるのかは誰にも予測することはできません。そんな不確実な世の中を生きる上で大切なのは、良い変化や機会がやってきた時に、それに気づける理性とそれを選択できる勇気です。
そして、毎日、同じようなことを繰り返すだけの生活では新たな変化や機会に出会えないため、変化や機会を生み出すための行動も前提として重要になります。
私自身、20代にしていた最も大きな勘違いは、知性や知識の重要性を過大評価し、行動から得られる情報や選択肢の価値を過小評価していたことです。
もっと自分が賢かったら、もっと自分が新しい知識を学んだら何かが変わると思っていたのですが、重要な変化をもたらしてくれたのは常に行動でした。
「行動」とそこから得られる変化や機会を活かす「理性」と「勇気」。それらを持って、日々の生活や業務に取り組んでいれば、いつかは大きな成果や素晴らしいキャリアが手に入るのではないでしょうか。
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