はじめて営業職に就く方や新卒入社で新人営業としてキャリアをスタートさせた方は、最初はなかなか成約が獲得できず苦労していることでしょう。
営業パーソンにとって目に見える一番の成果は、成約を獲得することです。成約を獲得するためのスキル向上には、様々な方法がありますが、人間行動の心理的特性を活かしたテクニックを身につけるのも1つの手段です。
営業は人と人とのコミュニケーションに過ぎないので、同じものを伝えるにも伝え方1つで受け取られ方は大きくことなります。その受け取られ方を良い方向に持っていくテクニックを、6つご紹介します。
営業に心理学は有効なのか?
営業のテクニックに心理学を取り入れている営業マンが驚くほど多くいることはご存知でしょうか。
対人で行う営業は必ず人間心理が働き、トップ営業マンほどそれを理解しているので、人間心理を利用して顧客の購買意欲を高めるのが上手いのです。
まずは、なぜ営業に心理学を取り入れることが有効なのかをみていきましょう。
心理学を取り入れる営業マンは多い
現場で活躍している営業マンのうち、なんと約6割が何かしらの心理学を取り入れているというアンケート結果があります。
主に活用される場面は「商談」です。
商談では、会話の中で顧客の気持ちを汲み取り、疑問や要求を引き出していくことが必要です。
もしも相手の話を聞かずに自分の要求ばかりを一方的に伝えると、商談そのものが成立しなくなってきます。
現代の営業においては、心理学を会話の補助に使うことがメジャーになっています。
心理学を応用した営業テクニックのメリット
心理学を応用した営業テクニックは、年齢や性別を問わず誰にでも有効な手段なので、使い方や効果さえ知っていればすぐにでも活用できます。
複数のテクニックを用いたものをパターン別に用意しておくことで、自分に有利な状況を作り出すこともできます。
営業に使える心理学のテクニックは多種多様ですし、営業マンがシーンに応じて活用しているテクニックもさまざまですが、最終的には成約に繋げることが目的です。成約に至るまでのハードルを取り除くために、関係性を築いたり、相手の真意を聞き出したりする場面で心理学的アプローチは活用されています。
ちょっとした一言で顧客の反応が一転することはよくあることです。
心理学を応用して伝え方を工夫することで、それまでは興味がなかったものを「話を聞いてみたい」「私にとって必要なものだ」と思わせることができるかもしれません。
本やネットには多くのテクニックが紹介されているので、営業がうまくいかないときや、もっと効率を上げたいときに補助的に取り入れることができます。
営業成績は”雑談”で決まる!関係値が高まる営業トークのコツとは?
人間の潜在意識を知ることが重要
営業に使える心理学のテクニックは、人間の行動心理に基づいたものが多いです。
商談をしているときに、相手の反応がどういった心理からきているのかを知ることができたら次の一手も打ちやすくなります。
顧客によっては、自覚はしていない潜在意識の下にあるニーズを引き出す必要もあり、現状の把握や問題の提起といったニーズを認知してもらう作業が必要になってきます。そのためにはまず自分が人間の潜在意識の動向を理解していることが重要です。
テクニックを使う際は、相手の反応がどのような心理からきているのかを把握できるようにしておきましょう。
無闇に使うのではなく、状況に応じて利用しよう
心理学を用いた営業テクニックは非常に有効ですが、どんなテクニックでもそうであるように、状況にマッチせずに使うと、うまく効果を発揮しません。
また、テクニックばかりに意識が向かっていると、会話が不自然になってしまうなど、場合によっては不快感を与えてしまうかもしれません。
成約のためにテクニックを使っているはずが、気づいたら反対の結果になっているなんてことも珍しくないのです。
事前にテクニックを使うポイントを明確にしておき、ここぞというときに利用してこそ高い効果を発揮します。
先に相手を好きになる「好意返報性の法則」
好意の返報性とは、人間の「自分がされたことを相手にもしたくなる」という行動特性を意味しています。
私たちは、デパートで試食したあとやコンビニでトイレを借りたあとに、なんとなく買わなくてはいけないと思ったり、贈り物を受け取ると、自分も相手に好意を抱くようになったりします。これが「好意の返報性」です。
好意の返報性とは、「自分がされたことを相手にもしたくなる」という意味であり、「自分が相手を好きになると、相手も自分を好きになる」という意味でもあります。
相手に好意を持つように努め、そのことを相手に伝えます(※やりすぎは逆効果です)。例えば商談相手の靴や時計をほめたり、受けた質問をほめたり、その人の取り組みをほめたり、などです。
個人に対して関心を持つことは、相手に対する好意ですから、相手も好意を持ってくれるようになります。
こうして、良好な人間関係を築くことができれば、その後の商談がスムーズに流れていくことでしょう。
こちらが人気商品です「バンドワゴン」
バンドワゴンとは、楽隊が乗ったワゴン車のことをいい、パレードなどで先頭を切って進みます。そこから、「バンドワゴンに乗る」という言葉が、「流行の先頭を行く」「人気のある商品を買う」という意味で使われるようになりました。
人は、商品やサービスを評価するときに、それが自分にとってどのように役に立つかを気にするわけではなく、他の人々にどう思われているかどうかを気にします。多くの人々に人気があるのであれば、きっとよい商品であるに違いない、これだけ多くの会社が導入しているのだからしっかりしたサービスであるに違いないなど、周りの評価を参考にしつつ意思決定をします。
ビジネスの現場でも、この原理を使わない手はありません。セールス実績や事例を紹介したり、評価の高いレビューを紹介したりすることで、相手の信頼を得ることができます。
実績について具体的な数字を入れられればより効果的で、納得感がでます。
選択肢は少なめに「分析麻痺」
インターネットで服を買おうとしたとき、あまりにも沢山の種類があるので、一つ一つ見ているうちに疲れてしまい、結局買わなかった経験を持つ人がいるのではないでしょうか。
「分析麻痺」とはこのように、商品やオプションの選択肢がたくさんありすぎるために、いろいろ場合分けをして選択肢を分析している間に、なにが最善なのかがわからなくなり、誤った決断をしそうなので何も買わないことにするといった状況です。
営業担当者は、商談の相手が分析麻痺に陥らないように注意しなければなりません。顧客に商品ラインナップやオプションを全部説明したり、顧客にとってあまり重要ではない機能を詳しく説明したりしてはなりません。
選択肢を与えることは重要ですが、与えすぎないこと、そして選び方を明確にすることが重要です。
顧客に自分から話させる「オープンクエスチョン」
相手が、「はい、いいえ」か「A、B」などのように選択することで答える質問を「クローズドクエスチョン」と呼び、相手が選択すること以外の方法で答える質問を「オープンクエスチョン」と呼びます。商談中には顧客に対して沢山の質問をすることになり、「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」を適切に使い分けなければなりません。
例えば冒頭に、「弊社製品は◯◯や◯◯といったシーンでご活用いただくことが多いものです。◯◯のような課題は御社にもありますか?」と聞くと「はい」か「いいえ」で答えるためクローズドクエスチョンです。しかしこのクローズドクエスチョンは、「はい」とだけ答えてしまえば終わりなので、ヒアリングが非常に表面的で核心にせまれないデメリットがあります。
オープンクエスチョンは、相手に話をしてもらいたい時に有効な質問方法です。なぜ、なにを、いつ、だれが、どこで、どのようなといった、5W1Hのオープンクエスチョンを適切に発して、相手に話をしてもらい、それを聴きながら相手の本当の気持ちや、隠れたニーズを推し量ります。
一方クローズドクエスチョンはクロージング間近に相手の意思を1つずつ確認していく際に有効です。
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高めの見せ球「ドア・イン・ザ・フェイス」
ドア・イン・ザ・フェイスは「譲歩的要請法」と呼ばれることもあります。はじめに要求水準の高い要求を出して、それを拒否させた後に、本当に受け入れてほしい要求を出すテクニックです。この言葉は、セールスマンが開いたドアに顔を突っ込み、家主がドアを閉めようとするときに、話だけでも聞いてほしいと持ちかけるテクニックから派生したものになります。
一度拒否すると次に譲歩したくなる心理を突いた技法です。
例えば月額5万円のサービスを売りたい時に、先にフルサービスの月額25万円のサービスを見せておきます。「これはさすがに高いから無理だなあ」とクライアントが言ったところで5万円のプランを見せると安く感じてもらえるかもしれません。
小さく産んで大きく育てる「フット・イン・ザ・ドア」
相手にイエスと言わせるテクニックには、反対方向のものもあります。フット・イン・ザ・ドアは、相手に最初に小さなイエスの決断をさせ、それを手がかりとして次のイエス、その次のイエスと、イエスを積み重ねさせる手法です。
フット・イン・ザ・ドアという言葉は、セールスマンがドアに脚を挟む行為が始まりです。この方法が有効な理由は、人間には一度一つの方向に進み始めると、一貫してその方向に進みたくなるという心理的傾向があることです。この傾向を「一貫性の原理」と呼びます。
月額5万円のシステムでいえば、1ヶ月の無料お試し期間を利用してもらったり、1ヶ月だけの短期間契約を取ったりすることで、目標である長期的な契約に近づけていく方法です。
営業に生かせる心理テクニックの身につけ方
本やネットなどで知識としてはすぐに知ることができる営業テクニックですが、いざ実践となるとうまく活用できないといったケースは珍しくありません。
会話の中で自然と使うためにはやはり練習が必要です。
ロープレで練習する
ロープレ(ロールプレイング)とは役割を演じることをいいます。営業でいうロープレとは、同じ営業マンに顧客役を演じてもらい、実際の現場を想定して商談をしていくことを指します。
ロープレは現場に出る前に、トークスクリプトやトークリストなど事前に準備したものの効果を確かめる良い機会であり、やっておくに越したことはありません。
新しくテクニックを取り入れたときや今まで使っていたテクニックを再確認したいときに行うのも有効で、上司や先輩に顧客役を演じてもらうことでフィードバックもしてもらうことができます。
ロープレを行うときは、三人一組で進めるとより高い効果を発揮します。自分と顧客役のほかに、第三者視点で見てもらう人を用意することで、営業マンと顧客の様子を見てもらい客観的な意見をもらうことができます。
また、顧客に明確な役作りをし、商談の一場面を切り出してロープレを行うことで、忙しい業務の合間でも短時間で効果的な練習ができます。
言葉以外にも気を遣う必要がある
いざ営業テクニックを使っても思うように効果が出ない、と思うこともあるかもしれません。
そもそもテクニックに頼りすぎているならばそれも問題です。顧客とうまくコミュニケーションを取れていない場合があります。
コミュニケーションを「言葉のみで行うもの」と勘違いしている人がこの状況に陥りがちです。
コミュニケーションは、言葉・声の使い方・ボディランゲージの3つの要素で構成されています。相手が受ける印象の割合は「言葉7%」「声の使い方38%」「ボディランゲージ55%」といわれており、これを「メラビアンの法則」といいます。
メラビアンの法則は「見た目が9割」や「話は二の次」といったことを示しているのではなく、話している内容に対して声のトーンや身振り手振りが一致しているかが重要になる、ということです。
例えば、「話を聞いてくれてありがとうございます!」と言っても声が怒っていると、相手は「この人は怒っているな」と感じてしまいます。一致していないとマイナスになってしまいますが、逆に話の内容がとても良い上に、話し方もジェスチャーもふさわしいものであれば、話した内容はさらに伝わりやすくなるでしょう。
メラビアンの法則を正しく理解し、営業テクニックにプラスすることで説得力のある提案ができるようになるでしょう。
まとめ
今回紹介した営業テクニックは、行動心理学、行動経済学に基づくアプローチ方法です。言い換えると営業テクニックは、相手を知り、相手と仲良くなるための必須のテクニックといえます。
営業テクニックと、その背景にある行動心理学を理解することで、相手の気持ちをより深く理解できるようになります。
相手の理解が進めば、相手にとっても自分にとっても、より良い結果を生み出せるようになるのです。