2019年4月17日、第14回目のベルフェイスユーザー会を開催しました。
今回のテーマは「Best Practiceを探求せよ!実践企業から学ぶInside Salesの仕組みづくり」として、インサイドセールスを実践する成功企業が紆余曲折の仕組みづくりを経てたどり着いたベストプラクティスを学びながら、自社に活かせるものを見つけていただこうという内容で3社にご登壇いただきました。
当日は500名以上の方が参加され、大盛況となりました。ユーザー会後にとったアンケートには、「とても勉強になった」「今回の講演の内容を社内に共有したい」と言った声が非常に多かったため、ユーザー会レポートという形で講演の内容を簡単にご紹介させていただく記事を作成する運びとなりました。
本記事では、特別講演としてご登壇いただいたアドビ システムズ 株式会社専務執行役員 マルケト事業統括の福田康隆さんの講演内容「THE MODEL~マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス~」をご紹介します。
アドビ システムズ 株式会社 専務執行役員 マルケト事業統括 福田 康隆氏
1972年生まれ。大学卒業後、日本オラクルに入社し、セールスコンサルタントとして勤務。2001年に米オラクル本社に出向し、営業職に従事。04年米セールスフォース・ドットコムに転職。翌年、同社日本法人に着任し、以降9年間にわたり日本市場における成長を牽引する。専務執行役員兼シニアバイスプレジデントを務めたのち、2014年に退職。同年6月マルケト入社と同時に代表取締役社長に着任し、2017年10月同社 代表取締役社長 アジア太平洋日本地域担当プレジデントに就任。そして2019年3月1日より、アドビ システムズ 株式会社との統合完了によりアドビの専務執行役員 マルケト事業統括に就任。
マルケトとは
他社のモデルをそのまま当てはめてはいけない
本日私が最も強調して言いたいことは、「ベストプラクティスは他社のものを単にそのまま当てはめるものではない」ということです。
この数年、日本では「SaaS(Software as a Service)」や「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」という言葉が急速にブームのようなかたちで取り上げられるようになってきました。それ自体はとても良いことなのですが、様々な方とお話する中で、「形から入っていこう」とする人が多いことに気がついたのです。
私自身も「モデル」の運用に10数年携わってきて、失敗もたくさん経験しましたし、うまくいったこともたくさんありました。その経験をまとめることによって、より正しい理解が広がっていけば、と考え、『THE MODEL』という本を出版するに至りました。
例えば、「モデル」の一例として、見込み客数を追うマーケティング、案件数を追うインサイドセールス、契約数を追う営業、継続数を追うカスタマーサクセス、というように分業し、効率化していくような企業もありますが、その「モデル」を全ての企業に当てはめるのは危険だと考えています。
実際のビジネスでは、販売代理店さんからの案件もあれば、営業が自らの人脈を活かして顧客を発掘することもあるように、無数のプロセスがあります。「その根本にあるものが何か」ということを理解し、自分たちの会社に合ったものをつくっていただくきっかけになればと思います。
アメリカン・フットボールの世界では、どのフォーメーションでは誰がどのように動き、チームの役割がどのように動いていくかということをまとめた作戦指令書のようなものをPLAY BOOKと呼んでいます。私は「モデル」をそのようなイメージで作りました。
「必要性」というものを無視して役割やKPIだけ取り入れてもうまくはいきません。自社の課題から必要なものを洗い出し、それに合わせてロールを作る。この何百何千の意思決定がベストプラクティスへとつながります。
“The Model”の根幹は顧客のステージ設計にあり
“The Model”についてお話をすると、「これはインバウンドリードにおけるビジネス設計だ」「BtoBで活かせるプロセスだ」などのお声をいただくことがあります。
しかし、”The Model”はBtoBのベストプラクティスとして作ったものではありません。この考え方の根幹にあるのは顧客のステージ設計であり、いかなるビジネスにも応用できるものです。
(当日の登壇資料 顧客ステージの変遷『THE MODEL』より引用)
営業やマーケティングの成果・効率を上げるために、現場で何ができるかという発想から施策やコンテンツ設計をいきなり考え始めてしまうことがあります。しかし、大切なのは顧客がどのようなステージ(サービスを知っているだけ、興味を持っている、など)を経て契約に至り、サービスを利用していくことになるのかという顧客目線です。工場に組み立てや検品などのステージがあるのと同様で、営業においてはリード獲得や商談獲得などステージがあります。
役割とはこのステージを前に進めることを目的とします。極論営業やマーケティングが役割として存在しなくても、顧客が勝手に製品のことを知って契約をしてくれるのであれば、役割はなくてもよいわけです。しかし、その役割がなくては顧客のステージが進まないケースにおいてその役割の「必要性」が生まれます。ステージと役割が決まって初めて、適切なチャネルや施策/コンテンツを作ることができます。
ステージ設計をする上では、ステージの遷移を感覚に頼らないことも重要です。営業マンの感覚でこの顧客は次のステージに進んだと決めつけてしまうことがありますが、それでは適切な施策/コンテンツを提供することができません。ステージが次に進んだと判断する「遷移指標」を、なるべくデジタルで測ることで、ステージ設計を厳密に行うことができるようになります。
(当日の登壇資料 『THE MODEL』より引用)
これは、顧客の購買検討プロセスが変化していることや、企業内部でも事業の成長とともに起きる変化を踏まえて、新たな営業、インサイドセールス、マーケティング、カスタマーサクセスのあり方を模索した「レベニューモデル」です。左から認知拡大➜リード獲得➜リード育成とステージが進んでいきます。
BtoB SaaSの製品が1番これに沿って考えやすいかもしれませんが、それ以外にも例えばフリーミアムモデルの製品などにも当てはめることができます。フリーミアムなのであればリード育成という工程は営業メンバーではなくトライアル製品が担います。トライアル製品を無料で自由に使ってもらうことで、その活用頻度や内容から満足した一定のユーザーが次のステージに進みます。
これは多くの製品に当てはまる最大公約数のようなモデルです。これをチューニングし、どのステージからどのステージへの遷移を、どの役割が担うのか、ということを自社内でワークショップをしたり議論をしたりと洗練していくことが重要です。
ただこのモデルを当てはめてはいけません。BtoBという領域1つとってみても、大手エンタープライズ企業をターゲットにする製品もあれば、スタートアップに強い製品もある。販売チャネルも成長のステージも様々。これらの企業全てに当てはまる特定のモデルを作ることはできません。自社の事業モデルをしっかり分析することを欠かさずやってもらいたいと思っています。
ビジネスは方程式のようにいかない
『THE MODEL』の中でもう1つ重要なことを述べています。それはスプレッドシート上で方程式のようにビジネスを考えてはいけない、ということです。
来期は売上を2倍にしようと考える時、みなさんはどう考えますか?
スプレッドシートに売上目標を入力し、契約単価はいくらだから何件の受注が必要だ、と計算する。そこからさらに受注率・商談化率などを逆算して、そのためにはこれだけのリード数が必要だ、と考える方も多いと思います。
(当日の登壇資料より抜粋)
こうまとめるとビジネスというものは計算だけすればよくて、非常に簡単に見えます。しかし方程式のようにはいかないのが現実のビジネスです。
契約単価はサービス固有のものなので、維持することはできるかもしれません。一方で、売上を2倍にする時に受注率を維持することはできるのでしょうか。商談の数が増えるため、営業の人員を新しく採用する必要があるかもしれません。退職者が出るかもしれません。その中で、受注率は維持・向上ではなくむしろ下がっていく可能性があります。
商談化率に関しても同様です。最初はすでに製品に対して意欲的な顕在層からリードとして獲得していきますが、それでは数が足りなくなります。もっと潜在層にアプローチをしていく必要が出てくるため、商談化率は保てなくなります。
仮に受注率が10%落ちて、商談化率が5%落ちたとします。そうすると、2倍獲得すればよかったはずのリード数は実は4倍必要だったということになります。ところが、売上目標を2倍にするというのにマーケティング予算を4倍にするという非効率なことはできないものです。
(当日の登壇資料より抜粋)
この図は薄い青が受注数、濃い青が受注していないリードの数を表しています。見ていただくと分かる通り、受注していないリードは加速度的に増加していきます。ここにビジネスを伸ばすチャンスが眠っています。
このリードに関してはすでに個人情報を取得しているため、追加コストをかけずにアプローチすることができます。もちろんこのアプローチをすでに実施している方は多いとは思いますが、まだまだ足りないと思っている方も多いはずです。
そうすると、ステージ設計はこのようになります。
(当日の登壇資料より抜粋)
認知を獲得してから、どんどんステージを進む顧客もいれば、その途中で次に進まない顧客もいます。途中でステージ遷移から離脱した顧客をリサイクルという箱に入れ、またそこからリード育成に戻る流れを構築する。
“The Model”ができた時にはマーケティングオートメーションというものは存在しませんでしたが、今ではMA(マーケティングオートメーション)の活用によって未受注のリードへのアプローチも進化しました。再利用を行うことで、今以上に効率的な営業・マーケティングを実施できるようになります。
さいごに
もし”The Model”に興味を持っていただけたのであれば、ぜひ本もお読みいただければと思います。セミナー等で全てをお話するには時間が足りないという理由で本を書いたというのもあります。
逆説的ではありますが、私も『THE MODEL』という本を書きながらも、これがベストなのかは常に疑問を持つようにしています。
この考え方を日本で広めようとした時も、電話でヒアリングする「インサイドセールス」が受け入れられるわけがないとよく言われました。
しかし今ではこれだけ注目を浴びて多くの企業で取り入れられています。インターネットやITの普及で世界の形はどんどん変わってきている。その中でベストプラクティスも変わっていくはずです。
時代にあわせて新しい”The Model”が生まれる。これがイノベーションですからね。